« 原始村ジパング物語【第二話】 | トップページ | 原始村のジパング物語【第三話】 »

「カイカク」と「バラマキ」②

R_koo 第二次安倍内閣が発足し、秋の国会では与党対野党の真剣勝負が始まることに期待したい。おそらく自民党は、自らの政策を「カイカク」と言って正義とし、民主党の政策を「バラマキ」と言って悪役に仕立てようとするだろうが、「カイカク」とは何か、「バラマキ」とは何か、をしっかり見極めないと、われわれ国民は相変わらず「B層」と言われ、馬だの鹿だのと思われてしまうだろう。

「カイカク」と「バラマキ」について、再度検証する。

この15年ほどの間の日本の財政政策に関して、「財政再建」は良いことだ、「財政出動」は悪いことだ、という固定観念が根付いていると思われる。832兆円にも上る政府の財政赤字(06年度国債および長期借入金残高)を念頭に、財政の健全化、将来世代にツケを回さない、という方向を目指せば、緊縮財政は正しいことと思われる。特に、小泉前首相が「財政再建路線」を「構造改革」と名付けてから、「財政再建路線」=「改革」=「良いこと」というレトリックが完成したようだ。対極にあるのは国による景気対策としての財政出動であり、「公共事業投資」と「減税」である。財政赤字の主な原因が過去の公共事業投資であり、それらは無駄な道路や無駄な箱モノに使われ、怪しい利権も絡んでいるらしい、ということから「バラマキ」と呼んで「悪いこと」という印象を持たれている。新しい第二次安倍内閣も、開口一番「これからもカイカクを続行します。」と言い、「バラマキの政治に戻ることは許されません。」と言い切っている。

しかし、単なる「良いこと」「悪いこと」という単純なレトリックに終始し、本質の議論を逃げていては、政治としては寒々しい。

ここで、過去の公共事業投資が果たして適切に執行されたか、無駄は無かったか、利権絡みの不正はなかったか、という問題は棚上げして、純粋に経済主体としての国の財政政策を考えてみる。

「カイカク」路線とは、「財政再建路線」であり、「小さな政府路線」である。「民にできることは出来るだけ民に任せ」、警察や消防のような利益を求めず、国民の生活を守る部門の運営に集中する「夜警国家」を目指す考え方である。経済理論としては新古典主義に立ち、市場原理にすべてを任せることで最適な状態が生まれると考え、市場原理を阻害するような規制や慣行の排除に重点を置く。

一方の「バラマキ」路線とは、国は必要な時には財政赤字が増えようとも財政出動を行わなければならない、という考えであり、経済理論としてはケインズ主義に立つ。国の経済の不況期は、需要が減退して供給が過多になっている状態なので、政府の財政支出で需要を作り出して経済活動を刺激すると、やがて波及効果で経済が自律的に回復する、という理論モデルである。

問題は、90年代のバブルの崩壊以降、日本政府は様々な景気対策として公共事業を中心とした財政政策を行ってきたが、10年以上に及ぶ不況を克服できず、巨額の財政赤字を積み上げてしまった、ということであろう。この事から、経済政策担当者の間にはケインズ主義の考え方は通用しなくなった、と考える風潮がある。

ところが、野村総合研究所のリチャード・クー博士の見解は、この時期の日本の経済の状況について、バブル崩壊による不動産価値の下落で、バランスシート上に大きなマイナスを抱えた企業が、バランスシートの健全化に注力した結果、需要が減退した(投資や技術研究費への支出を取りやめて、借入金の返済を急いだ)とみて、この時期の政府はより積極的な財政出動をするべきだった、と指摘している。

1996年、橋本内閣時代の日本のGDP成長率はG7でトップの実質4.4%だったが、1997年から財政再建路線に舵をきったために経済に変調をきたし、5四半期連続マイナス成長という最悪の状態になった(「橋本政権の経済失政」)。参院選惨敗の責任を取って退陣した橋本政権に代わった小渕政権は積極的な財政出動をして、2000年の名目GDP成長率はプラス1.2%に転じた。
その後、2001年に小泉政権が発足すると、緊縮財政政策をとったために名目GDP成長率は再びマイナス2.1%となり、2004年になってやっとプラスに転じた。

小泉内閣が登場したとき、「痛みを伴う構造改革を断行することで、景気回復させる」と宣言し、国債発行額を毎年30兆円以下に押さえることを公約した。そのような緊縮財政政策を取った結果、政府の長期債務残高(国債残高が中心)はどうなっただろう。96年に320兆円だった残高は、98年400兆円、2002年421兆円、04年499兆円と増え続け、06年は832兆円になっている。

Image003_4

あまり新聞や雑誌に取り上げられない「1人当たり名目GDPの国際順位」というものがある。橋本、小渕、小泉3政権の期間を比較すると、1994年度には日本は1位だったが、橋本財政改革の失敗で7位に転落、その後の小渕政権の積極財政で2位に戻している。
ところが、2001年からの小泉内閣の構造改革の結果、2005年度には14位に急落してしまう。これによって日本の国際的評価も急落してしまった。

2003年を底に株価が回復し、この2年は景気回復を示す経済指数が表れているため、小泉-竹中改革は上手く行ったと考える人もいるが、リチャード・クー博士のように現在の景気回復は企業の借金返済が進んだ結果であり、政府の間違った緊縮財政政策(改革路線)がなければもっと早く良い状態になっていた、という考えもある。

一般の家計であれば、借金が膨らんでしまったとき、支出を切り詰めて借金を減らそうとするのは当然だろう。このため、「カイカク」派の人々が、巨額の財政赤字を減らそう、将来世代にツケを回すのはやめよう、と言えば「なるほど、その通り」と思うのが人情だろう。しかし、家計の場合でも、支出を切り詰めれば食べるものや着るものも粗末になるばかりか、体調が悪くても医者に行かないようにするかもしれない。そして、より収入の多い仕事に移るか、景気回復を待つのみとなる。
国の場合も同様に、財政支出を抑えれば、「無駄」を排除するだけではなく、医療や福祉、教育補助や地方支援の支出も抑えなければならなくなる。さらに、国の場合はただ切り詰めるだけでは経済停滞を加速し、国の経済の国際競争力を損なう、という影響もある。国は、景気を回復させる責任を負っているのである。

「カイカク」は必ずしも正しいのか?「バラマキ」は必ずしも悪いことなのか?与野党真剣勝負の秋の国会では、突っ込んだ議論を期待したい。

参考: Electronic Journal

Banner_01

←宜しければ、応援クリックお願いします。

人気blogランキングへ

|

« 原始村ジパング物語【第二話】 | トップページ | 原始村のジパング物語【第三話】 »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/135811/7722350

この記事へのトラックバック一覧です: 「カイカク」と「バラマキ」②:

« 原始村ジパング物語【第二話】 | トップページ | 原始村のジパング物語【第三話】 »