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政権交代前夜~'97英国との対比~

Hukuda0001 「選挙は制度の中に隠された革命である。」と英国の諺にあるが、1997年の英国総選挙はトニー・ブレア党首率いる労働党が18年ぶりに圧倒的多数で政権を奪回するという、「革命的」な政権交代劇となった。「英国病」を克服し、強い英国をよみがえらせた「鉄の女・サッチャー」で長期政権を築いてきた保守党は、あっけなく惨敗した。

2007年9月、安倍首相の突然の辞任によって、福田政権が誕生した。憲政の常道にのっとって、国民に信を問う衆議院解散~総選挙が迫ってきた。日本で本格的な政権交代が実現するかどうか、今の状況は、1997年に保守党から労働党に政権が代わった英国と酷似していて興味深い。

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英国には、伝統的な「資本家対労働者」という対立軸があり、そこに都市部の中産階級層が加わって、保守党と労働党の間で政権交代を繰り返す「二大政党制」が根付いている。
労働党の政策は、労働者階級の利益を代表して、政府が市場へ積極的に介入を行い(大きな政府)、安定的な雇用を守ることに重点が置かれてきた。不況時には国家が積極的な財政出動を行なって需要を創出する、いわゆるケインズ政策がとられてきた。また、政府は所得に高率の税金を課し、それを財源にして「揺りかごから墓場まで」といわれるような手厚い福祉政策を行なった。
こうした労働党政権の政策の下で、「英国病」と呼ばれる経済の構造的不況、国際競争力の低下、インフレの慢性化、国際収支の悪化などが深刻になり、経済のグローバル化によってその政策が行き詰まっていた。

Thatcher00011979年に誕生したマーガレット・サッチャー首相の保守党政権は、政府の役割をできる限 り小さくして、市場原理を活用することを基本とし(小さな政府)、所得税減税、財政均衡、規制緩和、国有企業の民営化など、供給サイドを刺激することで経済を活性化させようとした。一方で、国家の福祉政策は、最低限度の「セーフティーネット」を提供すれば十分だとして、福祉支出の抑制が進められた。公的年金に関しても改革が行われ、国家が関与する公的年金を縮小して、民間が運用する個人年金への移行を推進した。

サッチャーの功績は、何と言っても英国を暗黒の1970年代から脱出させたことである。サッチャーの新自由主義革命は、英国の経済を再生させ、多くの富裕層を生み出した(こうした富裕層は、首都であるロンドン周辺に集まっている)。一方、重厚長大産業で成り立ってきたイングランド中部やスコットランドはサッチャーに見捨てられた。このような地域間格差が地方の保守党離れを誘発し、サッチャー離れが少しずつ始まっていった。

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2001年、 小泉純一郎が自民党総裁選で橋本龍太郎、亀井静香、麻生太郎を抑えて第87代総理大臣に就任したとき、日本はバブル崩壊の後遺症から抜け出せずに、「失われた10年」と呼ばれる長期不況のどん底にあった。この総裁選では、「不良債権」問題で一向に回復の気配が見えない経済に対して、構造改革に重点を置くことを表明した小泉と、景気対策重視を掲げた橋本他3候補の対立軸になり、「自民党をぶっ壊す」と絶叫する小泉に喝采を送る世論に押されて、小泉政権が誕生した。

「痛みをともなう改革」「改革なくして成長なし」というキャッチフレーズを掲げた小泉政権は、1970年代に登場した英国のサッチャー政権などが採用した新自由主義(大企業の競争力を阻害する規制や制度を撤廃・緩和し、競争力を回復させることで経済発展を促す考え方)を政策のモデルとし、公共事業の削減、地方財政縮減、国民負担増という政策をとった。法人税減税による税収減の穴埋めには、社会保障の財政規模を削減し、規制緩和を進めて、労使関係の規制や地場産業、農業の保護策も撤廃した。
小泉構造改革路線を好感した外国の投資家は、徐々に日本への投資を拡大し、外国人投資家に支えられる形で株価が上昇基調に転じ、景気の緩やかな回復が始まった。こうした変化によって、株や債権などの投資で儲ける「額に汗」しない富裕層が登場した。
片や小泉政権の政策は、地方財政の悪化、企業倒産、自殺者増大、失業者・フリーター・ニートの増加、家庭崩壊増など、深刻な社会問題をひき起こした。また、米国への従属を深めたために、政府・日銀による巨額のドル買いと米国債大量購入という形で、「国の借金」である国債発行残高はますます膨れ上がってしまった。

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サッチャーを継いだ ジョン・メージャー首相は、基本的にはサッチャー改革を踏襲したが、教育、医療などの分野で公共投資を拡大し、サッチャーの財政政策を修正した。常にサッチャーと比較されるメージャーは、堅実に政権運営を遂行している割りに人気が低く、保守党内部でもメージャーは有効なリーダーシップを発揮できない、という批判が高まった。これに、保守党の政治スキャンダルが追い討ちをかけ、補欠選挙でも保守党の惨敗が続いた。こうして保守党は、1996年には議会における多数を失った。
長期政権が生み出す末期的な症状が現れたのである。経済の状況は好転していたが、政治混乱の中で政権党である保守党への支持の回復にはつながらなかった。人々は、経済の回復が短期雇用やパートタイム雇用によってもたらされていること、根本的な雇用不安を解消していないことを知っていた。富める人と貧しい人の格差、ロンドンなどの都会と地方の間の経済的格差が顕著になり、人々の保守党に対する期待は急速に冷え始めた。
そして、1997年の総選挙で、ブレア党首率いる労働党が地すべり的な勝利をおさめる。

2006年に発足した安倍政権は、英国のサッチャー政権を引き継いだメージャー政権のような位置づけであった。小泉改革を引き継ぐという立場に立ちながら、「小泉改革の負の遺産」の処理に直面していた。
「美しい国」というキャッチフレーズで、郵政選挙で獲得した圧倒的多数の衆院議席を武器に、様々な法案を強行採決で成立させた安倍政権だったが、社会保険庁のずさんな年金管理問題、閣僚の政治とカネ問題などで足元をすくわれ、2007年の参院選挙では惨敗を喫した。かつて小泉劇場に沸いた国民も冷静さを取り戻し、自民党に対する期待が急速に冷え始めていた。

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Thony0002 ブレア政権が政権交代を実現できたのは、以前の労働党政策から脱却したことが大きい。サッチャー保守党の政策の中で、認めるところは認める(特に国際競争力の強化)、という現実路線で国民に安心を与えた。しかし、自己責任というスローガンのもとで、保守党政権では放置されてきた低所得や失業など、本人の努力ではどうにも回復できないような問題は、放置せずに政府が手を差しのべることを約束した。
公的年金については、サッチャー政権は市場原理に任せるべく個人年金への移行の促進をはかったが、「失業者の4割、自営業者の3割、パートタイマーの5割が、いずれの私的年金にも加入していないという状況」になっていた。
ブレア政権の年金に対する考え方の基本は、「公的年金は、老後を自力で備えられない者に向けられるべきで、自力で行なえる者は、私的年金を利用すべき」というものである。そこで、公的年金の給付水準の引き上げ、新たな個人年金の創設の二つが主張された。
こうした、「保守党政権の政策」でもなく、「古い労働党政権の政策」でもないブレア政権の政策は「第三の道」と呼ばれ、これまで議論されてきた「政府介入か、自由市場か」という対立図式ではなくて、両者の補完関係を求めるものとして高い評価を受けた。

日本の民主党は、これまで法案の「自民党案」に対抗して「民主党案」を提出する、という対案路線を取ってきたが、この戦術は功を奏していない。現実路線を取ろうとすれば、民主党案も自民党案も同じ内容になる部分も多く、そうなると後から対案を提出する民主党案には迫力がなくなってしまう。
今国会から民主党は、多数を占める参議院を主戦場に、民主党案を先に可決する「先出し」路線に転換することを予定している。これによって、民主党が現実路線で政権運営能力があることをアピールする作戦だ。
日本で戦後初めての本格的な政権交代が実現するかどうか、民主党も正念場を迎えている。

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