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立ち上がる巨ゾウ~安倍外交のお粗末~

Ind_03 21世紀に世界経済を席巻すると言われるBRICs(ブリックス=新興経済大国、B=ブラジル、R=ロシア、I=インド、C=中国を指す)4ヶ国。現時点で世界のGDPの約8%を占めるに過ぎないその経済規模は、2039年にG7(米、日、独、英、仏、伊、加)の合計を上回り、2050年でのGDPは中、米、印、日、ブラジル、露の順になると予想されている(米ゴールドマンサックス証券2003年レポート"Dreaming with BRICs: the path to 2050")。
これにより、米国による一極支配が崩れる可能性があると指摘され、ホワイトハウスも神経を尖らせている。

2028年に日本を超え中国、米国に次ぐ世界第3位の経済大国となると言われるインドは、すでにIT産業ではソフト開発力で世界一を誇り、さらに中国を上回る人口を武器に、これからの世界の工場となると見られていて、いま、最も世界の投資家・政治家・そして人々の注目を熱く集めている国である。

7月の参議院選挙で惨敗した自民党の安倍首相が、国内での政治の大混乱の中、8月21日~23日まで、当初から予定されていた通りインド訪問を強行したのは、対インドとの政治、経済の関係強化への強い意思の表れだった。経済面では、韓国や中国、EU企業に先行されている経済交流の地位挽回を目指し、このために、御手洗経団連会長をはじめとする250名近くもの経済ミッション団が安倍首相に同行し、精力的にビジネス交流のための活動を行った。

一方、安倍首相にはもうひとつの大きな思い入れがあった。今回の訪印で安倍首相は「自由と民主主義、基本的人権の尊重といった基本的価値と、戦略的利益とを共有する」と述べ、首相自論の「価値観外交」「自由と繁栄の弧」構想を披露した。Data207_3

安倍首相の「価値観外交」は、そもそも米国の新保守主義陣営(ネオコン)が提唱する「Value&Interest Sharing Alliance」と同義で、「民主主義」を世界共通の普遍的価値とし、その価値の共有を同盟の根拠、或いは敵対の根拠とするものだ。
安倍首相の提唱は、具体的には「オーストラリア、インド、日本、米国4か国の戦略的・経済的協力体制強化」を骨格としたものだが、インドのマンモーハン・シン首相は、あからさまではないものの、やんわりとその提唱を退けた。
「民主主義」をキーワードにした連携は対中国包囲網という色彩が強く、中国が敏感に反応することが明白である。シン首相が慎重に距離を置いたのは、当然であった。

政府、官邸が積極的に訴える「価値観外交」だが、本来こういうものは国内での政策として語られるべきもので、外国の首脳に対して言葉あらわに伝えるべきものではないだろう。
この点では、同じ時期にワシントンを訪問した小池百合子防衛大臣(当時)がライス国務長官と会談した際も、安倍首相らが提唱する「日米にオーストラリア、インドを加えた4カ国戦略対話」の枠組みについて、「中国に対して予期しないシグナルを送る可能性もある。慎重に進める必要がある」と否定的な見解を示された。
防衛省の説明によると、会談で小池氏が「日米は価値観を共有しており、豪印との連携が進めばさらに安全保障が強化される」と説明。これに対しライス氏は「インドとは個別の具体的協力を進める中で関係づくりをすることが適切だ」と述べ、2カ国間関係の強化にとどめるべきだとの考えを示したという。
新防衛大臣として、ライス長官と女同士の緊密な関係確立を期待していた小池氏には、さぞショックな返答であったであろう。

この一件でも露呈したが、安倍外交は言葉ばかりが踊り、現実の複雑な政治経済の利害関係への具体的戦略が無いのではないだろうか、という不安が募る。米欧日が世界をリードするという戦後の枠組みはすでに過去のものとなり、中国、ロシアは政治的プレゼンスを強め、インド、ブラジルという大国がそれに続く。アラブ諸国は原油高を背景に経済力が強まり、東南アジア諸国も統一経済圏構想を具体化しつつある。

高度なパズルのように複雑な世界情勢の中で、日本の政治はあまりに内向きであり、海外との階層的なアプローチが出来ていない。はっきりと言えば、巧妙なバランスオブパワーを築く構想力、情勢変化に俊敏に反応する機動力、相手の立場や状況を深く読む洞察力が未熟である。これも、米国追従一辺倒でここまで来たことによる結果であろう。

インドは戦略核の保有国でありながら、核拡散防止条約(NPT)に加盟しておらず、現行の原子炉についてもIAEA(国際原子力機関)の査察を受けていない。このため、国際社会では孤立した立場だった時期が長い。
中国とはチベット独立問題で紛争を抱え、パキスタンとはカシミール地方で戦時体制下にある。同じ南アジアにあるイスラムの大国イランとの関係や、急接近してくる英仏などのEU諸国、ロシア、米国との付き合い方では極めてデリケートな立場にあり、「全方位外交」を掲げて苦労して立ち回っている。世界各国は、このインドの置かれている状況を理解し、うまくアプローチしようとしている。

実際に、2004年7月以来、欧州理事会(EU首脳会議)の議長をも務める英国のブレア首相、ロシアのプーチン大統領、フランスのシラク大統領、オーストラリアのハワード首相が次々とインドを訪問した。当然ながら、外交の目的は自国のために最大な利益を求めるところにある。これらの首脳が長い旅を厭わず、ニューデリーに行ったのは、今まさに躍進しているインドが世界舞台で重要な役割を果たす前に、良い関係を結ぶことによって、政治や経済的な利益を獲得できるという狙いをもっている。

インドの核保有を厳しく非難していた米国のブッシュ大統領でさえ、2003年4月に初めて訪印し、「インドは世界最大の民主主義国」というおだて文句を連発して、経済発展への協調を提唱した(その後、2国間協定「原子力平和利用協力協定」を締結した)。
インドは現在、2ヵ所の原発を営業稼動させようとしている。近未来、全土に22ヵ所の原発を設置しようと計画している。この大プロジェクトに米国企業を参画させようというのが、米国政府の意図なのである。そのためには、NPTもIAEA査察問題も、すべて特例化してまで進めようというのである。

Koizumi これに対して、日本は2005年4月に小泉首相(当時)が訪印し、シン首相との間で両国関係強化で合意をみたが、日本出発時の「訪印の最大の目的は、本場のカレーを堪能したい」という小泉首相の発言は冗談ではなかったようで、インド財界人たちとのランチではカレー料理にたいそう満足したものの、その後の日印経済交流は芳しい進展はなかった。

2006年1月には、麻生外相(当時)が訪印したが、この期間、ニューデリーにはインドの重要閣僚はほとんどいなかった。シン首相をはじめ閣僚たちは、ハイデラバード開かれていた第四回インド旅行観光祭に出席していたのだ。なんともタイミングの悪い時期に訪印した麻生外相は、記者会見で「インドは世界最大の民主主義国であり市場経済という共有できる価値観をもっている。」と語った。
 麻生氏が力を込めた「世界最大の民主主義国」というフレーズは、これまで何度もブッシAso ュ大統領が使ったものだ。「アジアの友人」と言いながら、これほどまでに米国の言うことをなぞるだけの日本に、インドも困惑しているのではないだろうか?

日本にとって、対中国の外交はタフなものである。そのために、「価値観外交」も「自由と繁栄の弧」も良い。日印関係の緊密化は中国への圧力になる。しかし、外交戦略ともいうべき意図をあからさまにするようなあけすけな態度は国際センスを疑う。インドだって、困ってしまうだろう。
日印関係を中国への牽制、圧力とするためには、政治・経済・民間の各レベルで両国の関係が進展し、中国にとって無視できない状況をつくりだしてはじめて言えることではないだろうか。

インドの新聞では日中関係の現状を紹介し、経済発展する中国は日本をアメリカの戦略のなかに閉じ込め、日本独自の活動を押さえ込もうと意図している、と論じている。むしろ、インドの方が冷静に東アジア情勢を見極めているようだ。

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