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大国の利権 ~ダルフールの悲劇~

0001 国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は9月3日、スーダン西部ダルフール地方の人道危機の改善を目指して、スーダンの首都ハルツームに到着した。国連安全保障理事会が7月末に派遣を決めた平和維持活動(PKO)のための国連・アフリカ連合(AU)合同部隊(UNAMID)へのスーダン政府の全面的な協力を取り付けることを目指す。

日本の報道ではあまり触れられない「ダルフール問題」だが、世界では今世紀最大の虐殺、ジェノサイド問題として人々の関心が高まっている。

Darfur_map_2 ダルフールとはスーダンの西部地方、チャドと国境を接する地帯の総称で、アラブ系住民 と黒人系住民がほとんど慢性的と言ってもいい内戦を断続的に繰り広げてきた。2003年2月、黒人系部族を中心とした、反政府勢力による政府機関襲撃をきっかけに紛争が激化、国軍とアラブ系民兵(ジャンジャウィード=「馬に乗った悪魔」と恐れられている)は、豊富な武器と軍用ヘリなどの大型兵器を使用して黒人系住民の村々を次々と襲撃した。
国連によれば2006年2月までにダルフールの黒人系住民18万人が殺された。(一方、英国議会の報告書では30万人となっている。)

こうしたダルフール問題が世間に知らされ始めたのは2004年頃からで、4月3日の米ワシントンポスト紙の記事("Crisis in Darfur ")では、スーダン北西部ダルフール州におけるイスラム教徒の民族浄化(大量虐殺・レイプ・略奪)を、現在世界における最大の人道上の問題の一つ、と伝えた。 さらに、ワシントンポストは、この問題が報道されないのは、イラク問題やパレスチナ問題のような利益代表が米国内にいないからだと皮肉っている。

2004年、国連のアナン事務総長(当時)は、この状況を「ぞっとさせられるぐらい現実的な大量虐殺の危機」と警告。さらに踏み込んで、「国際的な軍事介入もあり得る」とスーダン政府を非難した。米国のパウエル国務長官(当時)もダルフールを訪れ、スーダン政府にジャンジャウィードへの支援を止めるよう求めた。

国連安全保障理事会では、スーダン政府に対する経済制裁などの措置を協議したが、常任理事国である中国は棄権してこれに応じなかった。中国はスーダンから産出量の70%以上の石油を輸入しており、多くの武器を輸出している。その武器がダルフールの虐殺に使用されている。

中国がスーダンに豊富な油田があると想定し、最初にその発掘に乗り出したのは1973年のことである。その後1983年に、スーダンにはイランとサウジアラビアを足した分よりも大きな油田が横たわっていることが確認された。以後この国では石油利権を巡って、熾烈な利権獲得紛争が繰り返され、欧米からもアメリカやフランスの石油メジャーが触手をのばしていたが、その後アメリカはスーダンをテロ国家として名指して国交を断絶、目下、中国はスーダンにおける石油利権で、一人勝ちといわれている。

スーダンのアラブ系住民の背後にある中国と、大国の利権によって紛争が絶えない未開発国という図式は、かつての帝国主義植民地時代を彷彿とさせる。(中国は、以前は侵略される側だったのだが。)

これに対し、米国議会下院の議員108人が5月、中国の胡錦濤国家主席あてに書簡を送り、スーダンのダルフールでの虐殺を続ける勢力への支援の停止を求め、中国側が十分な対応をしない場合には2008年の北京五輪のボイコットにもつながると警告した。フランスでも4月の大統領選挙のテレビ討論会の中で、社会党のロワイヤル候補がダルフール紛争における中国側の対応を非難し、オリンピックのボイコットを呼びかけた。北京オリンピック組織委員会芸術顧問を務める映画監督のスティーブン・スピルバーグも、中国の胡錦濤主席に書簡を送り、中国がダルフール紛争を収拾させる行動を取らない場合は、北京オリンピックの顧問を辞する、と伝えた。

イラクとアフガニスタンで泥沼に落ち込んでいる米国政府の動きは鈍いが、民間レベルでの平和運動と、スーダンの背後にいる大国中国に対する批判が高まっている。
ここで懸念されるのは、2007年1月から新しく国連事務総長に就任した韓国の潘基文のリーダーシップである。アジア人として初めて国連の頂点に立った潘基文は、中国の力に頼り切っていて、公平な舵取りができないように見える。潘基文はダルフール問題の原因について「ダルフールの内紛は、中央アフリカの気候変動が原因」と断言したのだ。確かに気候変動がもたらした凶作は、貧困層の多いダルフール地方に大打撃を与えた。しかしながら、中国の経済制裁拒否や石油利権、武器売買に全く言及することなく、ことさら貧困問題を強調するのは不自然であろう。

では、日本政府の立場はどうなっているのだろう?

2007年6月13日の参議院「政府開発援助等に関する特別委員会」で、安倍首相は、次のようにな発言をしている。
「私も先般、4月来日をされました温家宝総理に対しまして、中国におきましては、(特にスーダンに対しての)海外援助の在り方、その透明性、そしてまた国際規範に沿った支援を行うように求めてまいりたいと考えております。(中略)スーダンにおける虐殺、そしてその関連において、中国が来年オリンピックを開催するにもかかわらず、スーダンへの支援を行っているという議論があるのは十分承知をいたしております。しかし、日本の立場は、
スポーツはあくまでもスポーツであり、政治とは分けて考えるべきだろうと、このように思っているところでございます。」(国会議事録より)

・・・世界中が批判のトーンを高める中で、何と言う温度差であろう。これは事実上、中国のスーダン政策に理解を示していると受けとられかねない国際的政治感覚を欠いた発言でさえある。おそらく安倍首相は、小泉政権によって冷え切った対中国、韓国外交関係を好転させたい、というような配慮が抑制として働いたのだとは思うが、およそ世界の中のリーダーとしての資質を疑いたくなる間抜けな発言と言わざるをえない。

日本が国連常任理事国入りを目指し、真の意味で世界のリーダーたらんとするのであれば、ダルフール問題のような無差別虐殺に自ら手を貸すような政府や、後ろで利権を貪っているような国への批判はきちんと表明するべきであろう。

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