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米国債はアヘンか?

Qv0001 英国で「アフタヌーンティー(Afternoon tea)」という奇妙な習慣が生まれたのは、19世紀のヴィクトリア女王の時代だった。
当時のイギリス上流社会では、たっぷりと朝食を食べたので昼食は軽く済ますのが通常で、そのうえ、晩餐は午後8時頃からと遅いので、午後に空腹を感じることが少なくなかった。

1840年にベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアが、空腹を満たそうとメイドにお茶とパンやケーキを運ばせ、友人を招いて優雅な食器を披露したり、歓談するようになると、「アフタヌーンティー」という習慣はまたたく間に貴族の社交の場として広まっていった。

ところが、英国をはじめ欧州では茶樹が生育しないため、年々需要が伸びる紅茶は、もっぱら中国(清)から輸入されていた。当時は銀本位制によって、輸入された紅茶の代金は銀で支払われたので、大量の銀が英国から中国に流出した。

この事態を懸念した英国は、何とか対中国貿易でバランスを取ろうとしたが、英国の誇る陶器製品もそもそも英語で「ボーンチャイナ」と呼ばれるように中国が本場だったし、労働コストで中国の6倍の英国から中国に輸出できるものは何もなかった。
そこで、英国は植民地インドに設立していた東インド会社を通じてインドで産出されるアヘンを中国へ輸出し、その代金を銀で受け取るという策を講じた。
英国の資本で設立された東インド会社は、中国から獲得した銀を、英国本国へ配当として送金したので、結局、英国本国には紅茶の代金がそっくり還流する仕組みとなった。

図:「徹底歴史研究同盟」様Photo_3

ヴィクトリア女王が没して100余年、現代の日米貿易は、品質で優る日本製製品が米国市場に浸透し、慢性的な日本の貿易黒字となっている。今はドルが世界の基軸通貨であるので、日本には貿易黒字分のドルが年々増えていく。
かと言って、外国為替市場でドルを円に換えれば円高となって、輸出貿易の条件を悪くするので、日本政府は外貨準備高として膨らみ続けるドルに困っていた。
そこで、米財務省は日本政府に米国債を買うことを奨めた。米国債は、日本より高い金利で運用できるので、将来大きな利益を生む、というわけだ。こうして、米国には対日貿易で支払ったドルがそっくり還流する仕組みとなった。
(最近では、日本より大きな貿易相手国となった中国も、大量の米国債を買わされている。)

Photo_2

話は戻ってヴィクトリア時代、英国船が運んでくるインド産のアヘンのために、中国国内にはアヘン吸引の悪弊が広まっていき、健康を害する者が多くなり、風紀も退廃していった。ついに、道光帝は林則徐を特命大臣に任命してアヘンの取締りに当たらせた。林則徐の厳しい取締りに怒った英国は、1839年、大艦隊を中国に派遣してアヘン戦争が勃発Ahen_war した。結果は軍備で勝る英国軍の完勝で、講和条約で割譲された香港は、1997年に返還されるまで英国に占領された。

1997年と言えば、6月に橋本総理(当時)が米コロンビア大学での講演で「本当のことを申し上げれば、われわれは、大量の米国債を売却しようとする気になったことは、幾度かあります。米国債を保有することは、われわれにとって唯一の選択肢ではないのです。むしろ、米国債を売却して、金を購入することも、もうひとつの選択肢なのです。」との発言をしたとたんにNY市場が大暴落し、「大恐慌を起こしかけたハシモト」と米メディアにコテンパンに叩かれた。この一件があった後、日本保有の米国債売却の話は、日米間でタブー視されることとなった。

話は再び戻って、アジア地域で強力な軍事力を保持するヴィクトリア女王時代の英国は、何とインドに25万ものインド常備軍を持っていた。25万と言えば、英国本国の常備軍よりも大きな軍隊だったが、その抜きん出て大きな軍隊の維持費は、インド国民から徴収された税金でまかなわれていたので、英国政府の財政負担は無かった。

さて、現代の日米関係に戻ると、日本の在日駐留米軍にかかる費用の一部は、日米地位協定および在日米軍駐留経費負担特別協定によって30年間に渡って日本が負担している(なぜか「思いやり予算」と呼ばれている)。その額は毎年約2,500億円に上るが、額Usaf01 の多さから日本は「世界一気前のいい同盟国」と米国民に揶揄されている。そればかりか、在沖縄海兵隊のグアム移転費も、日本側が59%(約7000億円)を負担することで合意している。

ここで再度ヴィクトリア時代のインドだが、英国の支配によって中世的社会構造から近代化への改革に向かったインドは、しかし現地の人々に多大な苦痛をもたらした。原因は現地の実状を理解しない支配層が勝手に自分たちの利益のために、安易な税金増収を行ったからである。中世時代のインドの税システムが遅れたものであったのは事実だが、それが社会の実状にあっており、農民に過重な負担をかけないように弾力性を持たせたものになっていたのだ。それを無思慮に一律の税をかけることによって、農民は疲弊し、社会そのものを破壊し、混乱させることになった。

またまた現代の日本に戻ると、「カイカク」を掲げた小泉内閣は、「日本的」と言われた戦後の社会システムをすべて否定し、無思慮に米国流の「市場原理主義」を導入した。この為、一億総中流と言われ、世界で一番豊かで安全だった日本の社会は様変わりし、格差社会で貧困に苦しむ国民が激増し、生活苦に起因する犯罪や自殺が増加して、社会そのものが破壊されてしまった。

ヴィクトリア時代の大英帝国と中国、インドの植民地支配の関係と、現代の米国と日本の関係に類似点が多いというのはどういうことだろう。日本保有の膨大な米国債は、外貨準備高として「資産」に計上されているので、その価値は失われないが、もし、ある日ドルの価値が崩壊することになれば、中国(清)が買わされたアヘンのように、灰のような無価値のものになってしまう危険をはらんでいる。

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コメント

改めて言われてみればその通り。
ついでに、日本は米国から多額の貿易黒字を得ている、と悦に入っている人がいますが、
植民地時代のインドと英国の貿易は、インドが大幅な黒字だったそうです。数字の上では。

投稿: オサーン | 2007年9月 8日 (土) 13時28分

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