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逆上するブッシュ~安倍辞任の謎~

Bush02 逆上するブッシュに、安倍首相は追い詰められて辞任した。どうやら、そういうことのようだ。

9月8~9日にオーストラリアのシドニーで行われたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するはずだった米国のブッシュ大統領は、それに先立つ3日に、特別機で隠密裏にイラクを電撃訪問した。ライス国務長官、ゲーツ国防長官など、イラク政策を司る主要な閣僚を従えた今回の電撃訪問で、ブッシュ大統領はイラクのマリキ首相に対して、「石油ガス枠組法(石油新法)」の速やかな決議を求めたと見られる。

ブッシュ米大統領は、8月21日には訪問先のカナダで、マリキ・イラク首相について「指導体制に一定の不満がある」と述べて批判していた。
一向に思うように進展しないイラク情勢に、ブッシュ大統領の苛立ちも沸点に達したのだろう。イラクへの電撃訪問で、ブッシュ大統領はマリキ首相に相当厳しく当たったと思われる。

これには、米下院本会議が7月12日にイラク駐留米軍の撤退法案を可決したことが大きく影響している。法案は08年4月を撤退完了期限とするもので、ブッシュ大統領は「戦争の遂行に、議会が口出しすべきではない」とヒステリックに叫んで、拒否権の発動をちらつかせたが、共和党内からも年内のイラク駐留米軍削減を求める法案が議会に提出され、窮地に立たされている。

ブッシュ政権がマリキ首相に成立を求めている「石油新法」は、昨年夏に米国からの提案を受けて、今年1月のイラク政権閣議で法案として決定され、その後は5月の決議を目標に議会で審議が進んでいたが、シーア派、スンニー派の強硬な反対を受けて、審議は暗礁に乗り上げている。新法案は、今後イラクで行われる新しい油田・ガス田の開発について、外国からの投資を受け入れるとともに、石油やガスの販売によって得た利益を、外資の石油会社、イラクの中央政府、地方政府(クルド自治政府など)が山分けすることを定めている。
イラクの油田は1972年に副大統領だったサダム・フセインが中心になって国有化し、それまで石油利権を握っていた欧米石油資本を追い出した。今回の新法は、その利権を米英などの外国資本に取り返し、地方政府、特に親米・親イスラエルのクルド人政府に石油の利権が分配さることを目指している。米国のイラク侵攻は石油利権獲得のためではないか、という世間の強い疑いに対して、この石油新法は「やっぱりね」という感じの話になっている。

しかし、それ以上にブッシュ大統領にとって「石油新法」が重要なのは、これによって米国がたくらむ「イラク3分割」が加速すると考えられているからだ。
3分割とは、イラクをクルド、スンニ、シーアの3地域に分割する案だ。3地域のうちクルド(キルクーク)とシーア(バスラ)の地域には大油田地帯があり、最近「スンニ派の地域からも石油が出ることが分かった」という情報が(おそらくスンニ派を説得する意図を持って)流され、各地域がそれぞれ自分達の足元の地下資源で暮らせるよ、ということだ。
イラクの3大勢力がそれぞれ油田を持ち、それぞれが勝手に自活して、イラクという統一国家が消滅すれば、米国にとっては各地域の混乱が治まり、米軍を撤退させられるし、各地域の石油利権は手に入れられるし、という妙案なのだ。

ところが、フセイン政権の崩壊以来「イラク人」という単一性を失い、宗派や部族間の対立Saddle03 に終始していたイラクの人々は、ここに来て「反米」という軸を得て一気に団結してきた感がある。
イラクの混乱の最大の原因だったイスラム教シーア、スンニー両派対立は、和解の方向に進んでいる。8月末から4日間にわたってフィンランドで行われた極秘会合では、シーア派の反米指導者ムクタダ・サドル師が率いるサドル師派やスンニ派最大勢力の各代表らが参加して、宗派間対立を緩和する枠組み作りを目指すことで合意した。

今や反米勢力の英雄になりつつあるサドル師は、米国の世論や政界で厭戦気運が高まり、来年の米大統領選挙にかけて、米軍が撤退・縮小を開始するという状況の中で、イランの支援も受けて、米軍の撤退に合わせて反米運動を起こそうとしていると見られている。サドル師は、イラク国内のナショナリズムを復活させることで、スンニ派・シーア派・クルド人の分裂状態を乗り越えてイラクを再統合し、米軍撤退後のイラクで、サドル派が与党になって、スンニ派やクルド人との連立政権を作ろうとしているのだという。イラク情勢は、3つの勢力が一致団結して反米で立ち上がる、という、米国にとっての最悪のシナリオに向かいつつある。

Kaiji02 イラクでマリキ首相を怒鳴りつけてからオーストラリアに入ったブッシュ大統領は、逆上おさまらないという状態であったようだ。ここで、安倍首相から日本の「テロ特措法」の延長が難しい、という話を聞き、「何が何でも、延長させろ!」と一喝したのは想像に難くない。
日米首脳会談後の安倍首相の虚ろな目、「テロとの戦い」という言葉を繰り返す記者会見、ついには「職を賭す」という決定的な文言を口にする尋常なさ。ブッシュ大統領との会談で、大きなショックを受けたことは明らかだった。

小泉前首相の米国追従の方針で一気に突入した対アフガン、対イラクの「テロとの戦い」の支援活動だが、米国の目算の狂いによって、日本も抜き差しならない状況に追い込まれたようだ。日本にとっての「アフガン問題」「イラク問題」とは何なのか。日本は、どういう立場に立つべきなのか。その場合の、自衛隊の海外派遣の原則となる法律は、どういうものであるべきか。
安倍首相の辞任で、はからずも自衛隊の海外派遣に関する本質の議論が見えてきた。

【参考】
「イラク石油利権をめぐる策動」 田中 宇

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