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市場はターミネーターだった~ドルの破滅~

2001so_2 アーノルド・シュワルツネッガー主演の映画「ターミネーター」(1984年)は、人類が作った最強の軍事用コンピューターが、人類へ攻撃を仕掛けてくる、というSF未来ストーリーだった。ウィル・スミス主演の「アイ・ロボット」(2004年)も、人間に危害を加えないはずのロボットが、最新コンピューターの反乱で人間へのクーデターを仕掛ける、というものだ。古くは、スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」でも、宇宙船ディスカバリーの制御用コンピューター”HAL9000”が、突然搭乗員を攻撃してきた。

こうした映画のストーリーを思い出したのは、今、米国は自らが「普遍的な原理」として世界に広めてきた”市場原理主義”によって、絶体絶命の危機に追い詰められているように見えるからだ。
「市場に任せれば、すべてうまく行く」という米国の経済システムである市場原理主義が、グローバル化で世界に広まる中で、世界の債券市場は拡大してきた。債権の中にはハイリスク・ハイリターンのものも含まれるが、ヘッジファンドやエクィティファンドなど、高リスク債権に積極的に投資する勢力も現れ、すべては順調に進んでいるように見えた。しかし、現在の複雑なデリバティブが組み込まれた債権は、とてつもないリスクが発見されたとしても、その債権は市場で拡散してしまい、もはや対処不能になっている。
もちろん、「サブプライム・ローン(信用度の低い低所得者向け住宅ローン)」の破綻問題のことだ。

米国の経済は、2001年の9.11同時多発テロ後の景気対策で導入された低金利政策で、「お金のコストの安さ」をテコにして成長を続けた。低金利の住宅ローンで家を買い、みんなが家を買うので住宅価格が上がり、住宅を担保にして金を借りることができるので、米国民はその金で自動車や家具を買ったり、株式投資をしたりした。完全な住宅バブルの仕組みだが、そのおかげで株価は上がり、米国経済は成長した。

この低金利による好景気に支えられて、米政府は富裕層への大型減税やアフガンやイラクへの戦争の軍事費支出などで巨額の財政赤字を積み上げてきたが、このまま放置してはドルの価値が下がってしまうため、その借金の穴埋めのために海外の民間資金を引き寄せる必要がでてきた。そのためには短期金利の引き上げが有効だ。
そこで、米国は実に17回に及ぶ短期金利の引き上げを行ってきた。しかし、度重なる金利の引き上げで、今度は住宅市場など国内経済に悪影響がでてきた。
04年からの利上げによって、金利変動型の住宅ローンを組んでいた人々がローンを支払えなくなり、米国では昨年、住宅ローンを組んでいる92世帯に1世帯が破綻し、住宅ローンのノンバンクが2カ月間に22社倒産した。

今年7月頃から、米国のサブプライムローン問題が表面化し、住宅バブルの崩壊が、社債市場や株式市場の下落、ヘッジファンドの経営破綻、金融機関の不良債権の増加につながって、実体経済でも、住宅や自動車、耐久消費財の売れ行き不振、ローン破綻者の増加などが起こり始めているなど、深刻な状況にあることに人々は気がついた。

日本企業では、証券最大手の野村ホールディングスが7月25日、米国での住宅ローン債権を担保にした証券事業で、今年前半の半年間に726億円の損失を出したと発表した。大半が低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」に絡む損失で、野村は住宅ローン関連事業からの撤退など、米国での大幅な事業見直しを迫られた。

8月1日には、ポールソン米財務長官が、米サブプライムローン問題による市場への影響Sub_prime0003 はおおむね抑制されており、現在の世界経済が、ここ数10年でみられた堅調なペースで推移している、との認識を示して、火消しに努めた。
しかし、8月3日には米不動産投資信託(REIT)大手、アメリカン・ホーム・モーゲージ・インベストメントが、米破産法の適用を申請した。同社はサブプライムローンの焦げ付き増加に伴ってリスク警戒感を強める取引金融機関から新たな融資を受けられなくなっていた。

米国を震源地とする金融市場の信用収縮は欧州に飛び火し、8月3日にドイツ中堅銀行のIKB産業銀行が、サブプライムローンに絡んだ投資で損失を出したと発表、これを受けて政府系金融機関が緊急資金支援に乗り出した。また、フランス大手民間銀行のBNPパリバがサブプライムローン関連商品に投資している傘下のヘッジファンドの資産凍結を発表した。これは、ヘッジファンドから投資家の資金流出が起きるのを防ぐための措置であった。
8月10日、欧州中央銀行(ECB)は、米国のサブプライムローン問題で揺れるユーロ圏の金融市場に1558億ユーロ(約25兆円)の資金を緊急供給した。これは、9.11同時多発テロ直後に実施された693億ユーロ(約11兆2500億円)を上回る史上最高規模で、これにより「流動性の供給は十分」だとして、EU圏内の金融市場が「正常に戻りつつある」との声明を発表したが、わずか3日後の13日には、新たに476億6000万ユーロ(約7兆6700億円)の資金を供給しなければならなかった。

8月16日、東京市場は大幅な株安とともに円高も進行した。同時にアジア各国の株式が大幅安に直面、NZドルや豪ドルなどの高金利通貨も下落した。

8月21日、米住宅ローン会社ファースト・マグナス・ファイナンシャルは、連邦破産法11条に基づく資産保全申請した。負債総額は8億1250万ドル(約930億円)。22日には大手証券リーマン・ブラザーズ傘下のローン会社と、独立系のアクレディテッド・ホーム・レンダーズが新規の融資を停止した。

FRBのバーナンキ議長は、初めはサブプライムローンが崩壊したことによる悪影響を過小評価していたことを認め、今後サブプライムローンの延滞や物件の差し押さえがさらに増えると指摘。金融機関の損失は「最も悲観的な予想をはるかに上回る」と語り、7月中旬の議会証言で明らかにした最大1000億ドル(約11兆5000億円)の試算を超えるとの見通しを示した。

N_rock02 9月14日、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融市場の信用収縮から資金繰りが悪化した英第5位の住宅金融大手のノーザン・ロックは業績を大幅に下方修正、英中央銀行イングランド銀行が、緊急金融支援を行うと発表した。直後に同社の各店舗には預金を引き出すために顧客が殺到、取り付け騒ぎに近い様相を呈した。

サブプライムローンの問題は、直接の債権価値の下落による損失以上に、債権売買が停滞するという影響が大きい。高リスク債券には、サブプライムの住宅ローンのほかに、企業買収の資金調達のために米国の投資銀行が発行した債券がある。米国の企業買収会社が買収対象の企業の株を買うための資金を投資銀行が融資し、投資銀行はその債権を証券化して分譲販売している。これらの債券が全く売れなくなり、ゴールドマンサックス、リーマンブラザーズ、ベアースターンズといった米国の大手投資銀行は、買収資金の調達が困難になってきている。

ミートホープ社の「ひき肉」ではないが、「牛ひき肉」として売られていたものに違う肉が入っていたことが判明しても、すでにその肉は様々な食品に加工されており、どこにあるかは特定できない。こうなると、集団心理でひき肉が入っている加工食品がすべて売れなくなるようなものだ。
このまま債権が売れないと、多くの企業買収が途中で頓挫し、買収対象企業の株は下落し、投資銀行の債権の価値が大幅に下落する。一時、米国の信用格付け会社は、ゴールドマンサックスやリーマンブラザーズの格付けをジャンク債の一歩手前まで引き下げた(経営難に陥っている企業という評価)。格下げによって、これらの銀行は、より多くの金利を払わないと債券が売れなくなり、利益を出しにくくなった。

FRBは9月18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、4年3カ月ぶりの本格的な利下げに踏み切った。バーナンキ議長は声明で10月以降の追加利下げを慎重に判断する姿勢を示した。
しかし、世界の投資家や中央銀行がドル離れの傾向を強める中で、ドルの金利が大幅に下げられると、さらにドルの魅力が減り、投資家をますますドルから遠ざけてしまう。世界的に見ると、EUやその他の先進国の多くがインフレ懸念を抑えるために金利を上げる方向にある。その中で米国だけが大幅に利下げすることは、ドルの価値を押し下げる。日本の超低金利による「円キャリートレード」も、ドルの価値が下がって円高基調になると一斉にドルへの投資から引き上げた。
日本、中国、アラブ産油国など、ドル建てでの債権(米国債)を大量に抱えている国々は、米経済の成長が減速したりインフレになったりするとそれらを売りに出すだろう。インフレとともに、ドルが暴落することは、米国にとって最悪のシナリオとなる。

ドルと米国債の力が落ちることは、米国の覇権失墜そのものである。BRICsのような新興経済大国や、EU、上海協力機構のような地域経済協力圏など、世界が多極化する中での米国の覇権衰退は、世界の構造を大きく変える。
かつてハリウッド映画が未来物語として描いてきた悪夢が、現実になろうとしている。

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