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ネイサンと平蔵

Nathan 1777年、ナタン・マイヤー・ロートシルトは、銀行家の三男としてドイツのゲットー(ユダヤ人街)で生まれた。21歳で英国のマンチェスターに移住した彼は、英語読みでネイサン・メイアー・ロスチャイルドと呼ばれ、現在のロスチャイルド財閥の基礎を築いた。

1793年にフランス革命でルイ16世が処刑されると、市民革命が飛び火することを恐れた英国、ドイツ、ロシアなど列強は対仏同盟を結んでフランスを封じ込めようとした。一方のフランスには、ナポレオンという戦争の天才が現れ、同盟軍を各地で撃破していった。
長引く戦争に、各国政府は軍事費用が激増し、「戦争債」を発行して銀行家たちから出資を募らなければならなかった。

1812年のロシア遠征で大敗したナポレオンは、一旦はエルバ島に幽閉されるが、すぐにそこを脱出して復位を遂げる。これに対して、同盟国側はウェリントン将軍率いる英蘭連合軍がワーテルローでナポレオン軍に決戦を挑み、欧州の覇権を賭けた一戦が行われようとしていた。

ロンドンでは、英国企業に出資している貴族や銀行家たちが、この戦いの結果を伝えるニュースを息を殺して待っていた。同盟軍が勝てば、自分たちの持っている株券はプラチナを超える価値になる一方、ナポレオン軍が勝てば、それは紙くずと化してしまうのだ。

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2003年5月、東京株式市場でも世界の目がりそな銀行に関するニュースに注がれていた。

2001年、小泉政権が発足すると、慶応大学教授だった竹中平蔵は、経済財政政策担当大臣とTakenaka して入閣した。小泉首相は、経済政策に「緊縮財政」と「企業の破綻処理推進」の2つの基本方針を示し、「国債を絶対に30兆円以上発行しない」、「退出すべき企業を市場から退出させる」と拳を突き上げて叫んだ。
財政再建と景気回復のためのエンジンとして「市場原理主義」を導入したのは、竹中大臣の主張に従ったものだった。

竹中改革の要諦は、緊縮財政のもとで不良債権を抱えた企業処理を加速した後に、ITなどのニュービジネスにより景気の回復、経済の成長を図ればよい、というものだった。これを「サプライサイド(供給側)の改革」と呼んだ。
(しかし、この政策に対しては、サプライサイドの改革に重点が置かれ過ぎているため、不良債権は少なくなるだろうが、デフレは止まらないし、景気回復もない。不況が深まれば企業の売上げが落ち、価格競争は一段と激化する。デフレの悪循環は税収を落とし、国や地方財政を一層苦しめる。経済を縮小均衡させるだけで、かえって失業者を増やし、雇用不安をあおり、日本経済にマイナス効果をもたらすだけだろう、という批判が起こった。そして、まさにその懸念の通りとなった。)

2002年9月、小泉改造内閣で竹中経財相が金融相を兼務した。日本の銀行の不良債権処理を求める米国の意向に添った人事だという噂が飛び交った。
竹中金融相は「金融再生」を最重要課題とし、不良債権処理のために銀行の自己資本査定ルールの厳格化を試み、「繰延税金資産5年計上」を変更しようとした。株価、地価の暴落で、すべての銀行が自己資本不足に直面している最中の会計ルールの変更は、「政府が大銀行倒産を容認する」との政府の意思表示と受け取られ、日経平均株価は4月28日に7,607円まで暴落した。小泉政権の景気悪化促進政策と大銀行破綻容認のスタンスは、金融大恐慌を予感させた。

2003年3月期のりそな銀行の決算は、この「繰延税金資産計上」でもめていた。従来通り「5年」が認められれば自己資本比率4%の基準を満たし、りそな銀行は無事に決算を終えることができる。しかし、「ゼロか1年」の場合、りそな銀行の自己資本比率はマイナスに陥り、りそな銀行は「破綻処理」される。(「預金保険法102条第1項第3号措置」
その場合は、日本は金融大恐慌に突入すると見られていた。

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ロスチャイルド家は、5人の兄弟がドイツ、オーストリア、英国、イタリア、フランスの5カ国に分かれていて、お互いに堅く結びついて情報を交換していた。銀行家(投資家)にとって「情報」が最も貴重な武器であることを熟知していたのだ。
ロスチャイルド家専用の郵便船は常に出港準備完了の態勢を保ち、ひとたび何事かがあれば、乗客を乗せずに「情報」だけを誰よりも早く運んだ。

Royalexchange ワーテルローの戦いは、ロスチャイルド家の配置した監視役によって見守られ、ウェリントン将軍勝利のニュースは伝達船と早馬によってロンドンのネイサンのもとにいち早く届けられた。
その日の午後、ネイサンはロンドン市場で真っ青な顔をして大量の株を投売り始めた。それを見た投資家や銀行家たちは、慌ててわれ先にと株を投売りした。「ネイサンは、何か情報を摑んだ。ウェリントン将軍は負けたのだ」、と誰もが思ったのだった。当然、株は大暴落した。
翌日、ナポレオンが負けた、という正しいニュースが初めてロンドンに伝わったが、昨日紙くず同然にまで値を下げた株のほとんどは、ネイサンの手の者がすべて買い占めていた。

この日、英国の多くの銀行が破産し、名門の貴族家系が滅びた一方、ロスチャイルドは近代経済史上空前絶後の利益を上げて、後世の世界政治を動かすまでの力を得た。

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2003年5月5日、監査法人はりそな銀行の繰延税金資産を5年でなく3年とする案を決定し、りそな銀行に伝えた。
りそなの場合、「繰延税金資産」計上が他の銀行と同等の5年ないし4年だったなら基準を満たした。「繰延税金資産」計上がゼロか1年の場合、りそな銀行の自己資本比率はマイナスに陥り、りそな銀行は「破綻処理」された。その場合はりそな銀行の株価がゼロになり、日本は「金融恐慌」に突入しただろう。
繰延税金資産が「3年」計上されると、りそな銀行の自己資本比率は2.07%となり、4%の基準を満たさないが債務超過ではなくなり、預金保険法第102条第1項第1号措置の「抜け穴規定」を適用できる。公的資金で救済される規定があったのだ。

りそな銀行は政府によって救済された。実施されたのは経営陣交代と巨額の公的資金投Resona01 入だった。りそな銀行には1兆9600億円の公的資金が注入された。自己資本比率は一気に12.2%に上昇した。

小泉政権の「退出すべき企業を市場から退出させる」基本方針が放棄され「税金による銀行救済」が実行されるなら、株価は猛烈に上昇する。日経平均株価は政府がりそな銀行救済策を発表した3か月後の8月18日に1万円台を回復した。

この一連の流れの中で、おかしなことがいくつか起こった。
小泉政権が基本方針を放棄したのが5月17日で、この結果、株価が猛烈に上昇するのが自然だろう。しかし、現実には株価の上昇は4月28日から始まっており、株価急騰局面で外資系ファンドが莫大な利益を獲得したと見られている。一部の国会議員も株式購入に狂奔したという。…情報を事前に入手した勢力が存在する可能性が高い。

2003年2月7日に見過ごせない出来事があった。竹中経財相兼金融相が閣議後の閣僚懇談会で、日経平均株価指数連動型株式投資信託(ETF)について「絶対に儲かる」、「私も買います」と発言した。証券取引法では証券投資の勧誘などにおいて「絶対儲かる」などの断定的表現を禁じている。発言が問題になり、竹中大臣は厳重注意を受けた。
しかし、「絶対儲かる」発言の3か月後の5月17日に「りそな処理」が発表され、株価が高騰に転じたので、本当に買っていた人は大儲けしたことだろう。竹中金融大臣が、何を根拠に「絶対儲かる」と発言したか、背景が問題だ。

2006年12月18日の朝日新聞は「りそな銀、自民へ融資残高3年で10倍」のニュースを一面トップで伝えた。2002年末から05年末にかけて東京三菱、UFJ、みずほ、三井住友などの大銀行が自民党への融資を減少させたなかで、りそな銀行は02年末に4.75億円だった自民党への融資残高をりそな処理のあった03年末に24億円、05年末に54億円へ激増させた。
りそな銀行が自民党の機関銀行と化したことを暴露した朝日新聞記事が掲載される前日に、この記事に関わった同紙の敏腕記者が自殺したと伝えられた。

早稲田大学教授だった植草一秀氏は、この問題を厳しく指摘し、りそな処理に関係する巨大な「インサイダー取引疑惑」が存在する、その疑惑解明のために証券取引等監視委員会(日本版SEC)が徹底調査すべきだ、とテレビなどで何度も訴えた。しかし、証券取引等監視委員会は動かなかった。
りそなインサイダー疑惑への追求姿勢を強める植草氏は、2004年4月、東京都迷惑防止条例違反(痴漢容疑)で逮捕された。そして、検察側の不自然かつ非合理な起訴状内容にもかかわらず、罰金刑が確定した。
さらに、一連の事件と不当逮捕について全貌解明の本の出版を用意していたところ、2006年9月に再び痴漢容疑で逮捕された。この件も、無実を主張して現在も裁判係争中である。

【参考】
「赤い盾」 広瀬隆著 集英社
日本人が知らない恐るべき真実
「知られざる真実~拘留地から~」 植草一秀著 イプシロン出版企画
りそな銀行の闇(「副島隆彦の学問道場」)

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コメント

初めまして、大変に興味深い記事を提供して下さりありがとうございます。
私も植草一秀氏の『知られざる真実―勾留地にて―』を読み、巨大な国家的犯罪疑惑の真実を知り背筋が凍る思いをした一人です。植草氏の一連の事件の背景にこの問題を同氏が厳しく糾弾していた事実が深く関わっていると確信しました。植草氏の事件が冤罪であることは間違えなく、10月16日地裁判決を固唾を呑んで見守っています。
記事の末尾に記述されている自民党への各銀行の融資残高の単位が「兆円」ではなく、「億円」ではないかとの疑問があり、出版社に問い合わせたところやはり「億円」が正しいとのことでした。『知られざる真実』第二刷以降では、この部分の表記が修正されているとのことです。その点の修正をして頂けたらと良いと思います。

投稿: monmogogo | 2007年9月11日 (火) 00時18分

momogogoさん、
ご指摘ありがとうございました。早速、金額の訂正をさせていただきました。小泉政権以降の疑問と、それを不問としてきたマスコミに対していろいろ発信していきたいと考えています。今後とも、よろしくおねがいします。

投稿: toshi | 2007年9月11日 (火) 02時21分

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