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蒼暗き闇の深淵~植草事件に寄せて~

01 10月16日、東京地裁で東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた元名古屋商科大大学院客員教授植草一秀被告の判決公判があった。注目された判決は、懲役4ヶ月(求刑懲役6ヶ月)の実刑であった。
これに対し、植草一秀被告は「不当判決に強い憤りを感じている。私は無実、直ちに控訴する。無実を証明する目撃者証言の内容が、正確に報道されてこなかったことも残念。無実を明らかにするために、今後とも闘い抜く覚悟だ」と述べ、控訴する方針を示した。

この件に関しては、植草氏への国策逮捕、冤罪との視点から氏を支援するブログが数多く立ち上げられている。それらの中で、裁判での検察側主張の矛盾、疑念なども取り上げられている。(末尾参照)

植草氏の弁護活動を続けている梓沢和幸弁護士は、「隠されている情報を引き出すために危険なところに手をつっこんでいくのがジャーナリズムではないか」と述べ、メディアに期待されている公共性についてマスメディアが応えていないことに不満を述べながらも、戦前の大政翼賛会を賛美しまくったマスメディアを念頭に、現代の市民メディアの可能性に言及して、「植草さんの痛みを自分自身に置き換え、これ以上マスメディアに悪をやらせないという気持ちでこの訴訟を勝ち抜きたい」との決意を表明している。

植草氏の事件が冤罪であり、国策捜査の犠牲になったとすると、いったい誰が何のためにこのような事件を仕掛けたのだろうか、という疑問が湧き出る。
植草氏の逮捕は今回が2回目であり、前回2004年の事件は、4月8日に横浜での講演を終えた植草氏が品川駅の改札を出てエスカレーターに乗ったところで、携帯電話を使って女子高生のスカートの中を盗撮した、として警察官に現行犯逮捕された。しかし、植草氏の携帯電話はアタッシュケースの中に入っていて、盗撮に使えないことが分かったため、たまたま氏の上着のポケットの中から出てきた手鏡を使って覗きを行った、という話に切り替えられて起訴された。

この頃、植草氏は小泉政権の下で進められた金融改革に批判的な意見を発表していた。単に経済政策に対する批判以上に、りそな銀行国有化に至る不透明な経緯と、疑わしいインサイダー取引犯罪の可能性にも言及していた。

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01_2 2002年10月、内閣改造で金融担当となった竹中金融相は「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」を発足させ、銀行の当時の会計ルールだった5年間の繰延税金資産計上の期間を短期化させる案を、わずか3週間で決定し、2003年3月期決算から適用する案を公表しようとした。
分かりにくいが、将来還付される税額をあらかじめ自己資本に計上することを「繰延税金資産」という。つまり、将来戻ってくることを見込んで、会計上税金の支払いがなかったことにできる制度だ。銀行にはこれまで5年分の「繰延税金資産」計上が認められてきた。竹中氏は「金融再生プログラム」のなかで、2003年3月期決算から、「繰り入れ限度」を米国基準と同じ自己資本の1割に圧縮しようとした。

なぜ、竹中氏はこれほどの大きな基準変更を、拙速に実行しようとしたのか?
しかし、このときは銀行界や自民党からの猛反発で竹中案は実現できなかった。

一度失敗した竹中金融相は実質的な会計ルール変更に向け公認会計士協会に行動を仕掛けた。この時の協会会長は、一回目に失敗した「金融再生プログラム」のプロジェクトチームメンバーだった奥山章雄氏である。(奥山氏が代表を務める業界最大手の中央青山監査法人は、その後多くの企業の粉飾決算に関与したことが発覚し、07年7月に解散に追い込まれる。)

竹中氏のターゲットとされたのが、りそな銀行だった。
2003年3月期のりそな銀行の決算は、今まで通りの会計基準(会社法や証券取引法に則って決められた会計計算や財務諸表の作成に関するルール)に基づけば問題は無かった。しかし、監査を受嘱していた新日本監査法人は、りそな銀行の繰延税金資産を5年ではなく3年とする案を決定し、5月6日にりそな銀行に伝えた。繰延税金資産3年計上はりそな銀行の自己資本比率が4%を割ることを意味していた。
問題は、「5年」を「3年」に変更したことではなく、3月31日の決算期を過ぎてから、会計基準を変更したことである。もはや、りそな銀行にとって、この時期に通告を受けてもなんの手立てもない。
野球で例えるなら、9回に逆転勝ちしたチームが、試合終了時に「この試合は7回終了時の得点で勝者を決定する」と審判に言われるようなものだ。こういうことが通用するなら、どんなスポーツも、いかなる会社の経営も成り立たない。3月末を過ぎてからの企業の会計基準変更は、「謀略」とも言える。

01_6 これにより、りそな銀行は国有化され、2兆円近い公的資金が注入された。この後、株式市場は反転し、株価は急騰する。その際、外資系ファンドや、一部の国会議員が巨額の利益を上げたと言われる。植草氏は、このインサイダー取引疑惑を指摘し、証券取引等監視委員会が調査すべきだ、という発言をしていた。

なお、りそな問題では、会計基準変更直前の4月24日に、りそな銀行決算のキーパーソンと言われた朝日監査法人(現あずさ監査法人)の平田会計士が自殺した。彼は、何を知っていたのだろうか?

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実は、植草氏が品川駅で逮捕される2004年は、年初から新生銀行(旧長銀)の再上場を認めるべきかどうかが国会でも問題になっていた。結局、2004年2月19日に見切り発車の形で再上場が認められた結果、リップルウッド(現RHJインターナショナル)は巨大な利益を獲得した。そもそもリップルウッドへの落札が適正だったのかどうか、その点も新生銀行の再上場に関する国会論議では問題とされていた。

長銀破綻から譲渡されるまでに投入された公的資金の総額は6兆9500億円にのぼるが、リップルウッドはその長銀をわずか10億円で手に入れた。その上、1200億円の「瑕疵担保特約」というオマケまでついた。瑕疵担保特約とは「譲渡後の3年以内に、引き継いだ債権が2割以上劣化した場合は、国が簿価で買い戻す」という条項だ。融資先の企業が倒産しても、この特約を使えば、国が買い戻してくれるので損はでない。逆に、企業が立ち直って、貸した金を順調に回収できればすべて新生銀行の利益になる。リップルウッドが必ず儲かる仕組みになっていたのだ。

長銀のM&Aでは、日本政府とアドバイザー契約を結んだ米ゴールドマンサックスも、濡れ手に粟で大金を手にした。売り手側のアドバイザーとなったのだから、日本政府が有利になる条件で譲渡契約を結ぶのが当然なのに、ゴールドマンサックスは日本政府に不利な瑕疵担保特約を認めた。
国民からは轟々と非難の声があがったが、「金融危機を回避するためには、多少の犠牲はやむを得ない」との政府高官の声にかき消されてしまった。

この点でも、植草氏はテレビ等で、旧長銀が破たんしてリップルウッドがそれを買い取る経緯が非常に不透明だとはっきり言ってきた。
植草氏は、『月刊日本』2005年11月号のインタビューで、「旧長銀のリップルウッドへの落札疑惑を調べていたことが2004年事件につながったと感じている」と吐露している。

なお、RHJインターナショナル(旧リップルウッドホールディングス)のウィリアム・H・ドナルドソン上級顧問は、ニクソン政権でヘンリー・キッシンジャー氏が国務長官時代に国務次官を務めた人物で、フォード政権で副大統領だったネルソン・ロックフェラー氏の特別顧問を務めた米政財界の大物で、グレッグ・ブレネマン上級顧問は米大手監査法人プライスウォータハウス&クーパーズのCEOを務めている。日本法人(㈱RHJIインダストリアルパートナーズアジア)代表の倉重秀樹氏も、プライスウォーターハウスクーパーズ・コンサルティング・ジャパンの会長を務めた経歴を持つ。
大手監査法人と投資ファンド、政財界の深いつながりが垣間見える。本来、相反する立場に居た実力者が集まったところに、蒼暗い闇の存在を感じさせる。

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01_5 今年の1月11日、洋菓子メーカーの不二家が期限切れ原料を使用していたとして、製造販売の休止を発表した。東京証券取引所は、即日不二家株の「空売り禁止規制」の措置を取った。
ところが、1月12日財務省受付(12月30日以降の大量保有義務発生)の不二家の株主に関する情報では、ゴールドマンサックス証券など(ゴールドマンサックス証券(日)、ゴールドマンサックス(英)、ゴールドマンサックス(米))が6,720,000株の大量株式を取得していることが判明した。実に保有率0%→5.32%への大飛躍である(金融庁のホームページからの情報提供)。
しかも、「当該株券等に関する担保契約など重要な契約」のところには「株券の消費貸借により321万6千株の借り入れ」とある。要は、ゴールドマンサックス証券は321万6千株の不二家株をすでに空売りしていて、不祥事の発覚で株価がどん底に下落してから買い戻すことで、巨額の利益を獲得したのである。ゴールドマンサックスが、07年1月11日以前に不二家の不祥事を知っていたとしたら、典型的なインサイダー取引になる。不二家の監査法人も、みすず監査法人(旧中央青山)だった。
その後、この不祥事で巨額の損失を出した不二家は銀座の一等地の本社ビルを手放すが、これを買い取ったのはシティグループだった。

中央青山~みすず監査法人は、足利銀行の粉飾決算、カネボウの粉飾決算、ミサワ九州の粉飾決算、ライブドアの粉飾決算に深く関与し、06年12月には日興コーディアル証券の決算書の虚偽記載を追認していたことから、金融庁から業務停止命令を受けるなど、社会信用上の多大な問題を抱え、結局07年7月に解散した。
しかし、みすず解散の前年の06年6月には、みすず/中央青山の提携先であったプライスウォーターハウス&クーパーズが日本であらた監査法人を立ち上げ、多くの会計士と顧客はそちらに移動している。うがった見方をすれば、中央青山は、この10年間の疑わしい金融犯罪の証拠隠滅のために解散され、米大手監査法人が直接日本の会計監査事業に乗り込んできたように見ることも出来る。
なお、日興コーディアル証券は上場廃止を念頭に監理ポストに移ったが、その後、不可解な決定で上場廃止を免れ、小泉政権下で解禁された「三角合併」の第一号として、米シティグループに買収された。15億円の粉飾で上場廃止されたライブドアと、150億円の粉飾でも上場廃止を免れた日興コーディアルと、ここにも不透明な決定がある。

植草氏が訴えかけていたものは、このような深い闇のほんの入り口だったのかも知れない。不当逮捕と不当判決は、口止めのための威嚇なのかも知れない。マスメディアがその闇の隠蔽に加担するなら、市民メディアは力を合わせて真実究明の声を上げなければいけない。
このような闇の中に消えた巨額の金は、もともと国民の税金であり、国民の財産であった。その意味では、すべての国民が被害者であると言える。政治も行政も国民の利益を守ることが出来ないのであれば、国民は自ら抵抗の声を上げなければ、今のミャンマーの情勢と何も変わらない。

植草一秀元教授に聞く 痴漢えん罪事件と権力の闇

女性セブンの記事はデタラメ」植草一秀さんと梓沢和幸弁護士の話を聞く

植草氏は国策捜査の犠牲に? 「知られざる真実 拘留地にて」を読んで

知られざる真実-勾留地にて-

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本日の記事は、コイズミ以降行なわれた日本売りを示す顕著な例だと思っています。日本の首相が、日本国民の財産を権力と引き換えに売り渡す、本当に許せない行為だと思っています。一人でも多くの国民にこの事を知ってもらいたいとも思っています。また野党も、民主党も、米国の圧力に怯まず、裏切り者の責任を追及して欲しいとも思っています。テレビ大新聞も裏切り者の側の支配下に置かれていますので、真実はネットの中から広めていく必要があります。今日の記事に付け加えるなら、足利銀行の破綻も絶対に不自然です。その年の経済環境の悪い3月期決算を乗り越えられた銀行が、経済環境が好転し、株価が高騰した9月期に破綻することは絶対にありえないことだと思っています。政府と共謀した会計監査法人にによる国策破綻としか考えられません。また先の不透明な日興證券の救済も、東証の現理事長の意図的な外資への売却工作としか思えません。重要なポストに米国側が自由に操れる人物が就任しており、既に日本経済は、米国の意図するままに貪られているのが現状でしょう。本当に、コイズミが残した不の遺産は未来永劫日本人を苦しめ続けるのでしょうか。政権交代して、ストップ・ザ・売国ニッポンして欲しいものです。

投稿: scotti | 2007年10月18日 (木) 11時44分

scottiさん、コメントありがとうございます。植草事件~りそなインサイダー疑惑を書くのは二度目ですが、今後も控訴審裁判を注視していかなければいけないと思っています。9.11テロ事件も、ネット・メディアを中心に疑惑の全体像が浮かび上がりつつあります。市民メディアは無力ではないと、信じています。

投稿: toshi | 2007年10月18日 (木) 12時16分

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