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文明の黙示録(19)

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                   第二章 資本の野望 (8)

                   【 1986年 マナグア 】

Old_cathedral01 1972年12月、中米ニカラグアの首都マナグア市を襲った大地震は、神戸大震災の数倍という規模で、何万という犠牲者を出した。ニカラグア支援のために、世界中から多くの支援物資や義援金が寄せられたが、独裁政権の実権を握っていたアナスタシア・ソモサはその資金のほとんどを着服してしまった。このため、地震で倒壊した建物の整理も全く手が付けられず、その後長く壊れかけ朽ち果てたビルディングや瓦礫の山といった大地震の爪痕が放置された。 
ソモサは大地震を期に非常事態を宣言、まんまと独裁権力を手に入れたが、これに憤激した国民は反ソモサに立ち上がり、ニカラグアは長期に渡る社会混乱に陥った。

アメリカ国内ではベトナム戦争での敗戦や、ニクソン大統領のウォーターゲート事件などでホワイトハウスへの嫌悪感が広がり、1977年にクリーンなイメージのジミー・カーターが大統領に就任した。カーター大統領は人権外交を掲げ、独裁国家への批判的態度を強めたため、アメリカの支援を失ったソモサ政権は追い詰められ、1979年、武装蜂起したサンディニスタ民族解放戦線 (FSLN) によってサンディニスタ革命=「歌う革命」が実現した。
ところが、1981年に「強いアメリカ」を掲げるロナルド・レーガンが合衆国大統領になると、社会主義的政策を掲げるニカラグア革命政権を批判し、ニカラグア国内ではレーガンの意向を受けた反革命派の活動が活発化して内戦状態になった。

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コントラ(コントラ・レボルシオン=反革命軍の略称)とは、旧ソモサ軍の敗残兵やレーガン政権の雇った傭兵で組織された反政府勢力で、アメリカが中南米の軍事拠点としていたホンデュラスを足場にニカラグアの政権転覆を企てていた。

Oliver_north01 アメリカの反米政権転覆作戦は、古くから筋書きが決まっていて、まず国内の反政府勢力に最大限の謀略活動を行わせ、マスコミを使ってデマ宣伝を広げ、テロリストが破壊活動や要人暗殺などを行う。その間に国外で亡命政治家が「暫定政府」を作り、アメリカに支援を要請すると、米軍がそれに応えて出動する(CIAには立派な「破壊活動マニュアル」までそろえてある)。 
ニカラグアの場合は、コントラが反政府武力活動をする一方で、ロックフェラー財団によってアメリカに招かれたオバンド大司教が反共演説をくり返し、その見返りに膨大な資金の提供を受けた。

1982年5月、国家安全保障会議(NSC)内にブッシュ副大統領が議長をつとめる「危機想定計画作成グループ」が創設され、NSCスタッフ、CIA、国防総省、国務省の代表が定期的に協議を行った。フォード政権でCIA長官を務めたブッシュ副大統領が、すべての隠密活動と情報活動のチーフとなり、事務局のオリバー・ノース中佐が「麻薬が合衆国に流入するのを阻止するため」という口実でラテンアメリカ地域で様々な秘密作戦を展開した。エスカレートするNSCの秘密工作に対して、穏健派のシュルツ国務長官はレーガン大統領に自制を求めることもあったが、NSCは1984年、米軍によるニカラグア港湾への機雷封鎖を決定した。

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イランでは、1979年にアメリカの支援を受けていたパーレビ王朝が市民革命によって倒れ、イスラム原理主義指導者ホメイニ師を中心とする新政権が発足した。イスラム原理主義を掲げる新しいイラン・イスラム共和国は、資本主義のアメリカも共産主義のソ連も敵視したため、西側陣営も東側陣営もイランの動きを警戒した。
日本は、1973年に三井物産を中心とした投資会社が、イランのバンダル・シャプール地域に天然ガス採掘の総合石油化学コンプレックスの建設を目的としたイラン・ジャパン石油化学(IJPC)を設立していたが、イラン革命によって工事は中断した。しかし、1980年、アメリカがテヘランで発生した米国大使館人質事件をきっかけにイランと断交した直後、イラン側の強い要請で国家プロジェクトに格上げして工事を再開した。イランは、経済発展へ日本のような中立国の援助を求めていた。

イランの米国大使館を占領したイスラム学生たちは、大使館に残された資料を調べ上げて、アメリカのイランへの介入の実態を解明しようとした。過去の秘密工作の露見と、日本などの協力によってイラン革命政府が安定することを防ぎたいアメリカは、イラクのサダム・フセイン大統領に武器と資金を供与し、イラン・イラク戦争を引き起こした。1980年9月にイラク空軍によるイランへの急襲で始まったイラン・イラク戦争は、開戦直後はイラクが圧倒的に優勢だったが、イラクの強大化を恐れたイスラエルは、1981年6月イラクの原子力発電所施設を空爆、イラクは対イスラエル防空に戦力を割かなければならなくなり、一方、アメリカからイスラエルを迂回して武器援助を受けたイランが形勢を挽回して、戦争は膠着状態になった。

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President_reagan01 1986年末、ベイルートから発せられた一本の外電が、やがて世界を揺るがす大スキャンダルに発展しようとしていた。レバノンのシリア系新聞「アルシラア」がイラン高官筋情報として「アメリカ政府が密かにイランに武器を売却している」と暴露し、さらにその売却代金をアメリカ政府がニカラグアの反政府組織コントラに手渡していたことが明らかになった。
レーガン大統領は、イラン・コントラゲート事件解明のために、テキサス州出身のジョン・タワー上院議員を委員長とする大統領特別検討委員会(通称タワー委員会)を設置し、事件はNSCを掌握するポインデクスター補佐官の指揮の下、事務官のオリバー・ノース中佐が実行役になって行っていた、と発表した。レーガンは二人を解任し、自分は知らなかったことにして何とか事態を打開しようと謀った。

直後に開かれた国連総会では、ニカラグア政権転覆のために行われた様々なアメリカの謀略が糾弾され、、コントラ援助を中止するよう求める総会決議が採択され、国連事務総長が声明を出すにいたった。それに対して、アメリカはニカラグアが麻薬密輸に関与していると反論し、コントラ支援の口実を何とか作ろうとしたが、今度はCIAが麻薬に関係しているという、もうひとつのスキャンダルが発覚してしまった。
ラテンアメリカでは、コントラへの「人道的支援」を担当したヴォーテックス社が物資運搬用の飛行機を飛ばしていたが、この飛行機は麻薬の運搬も行っていたのだ。ヴォーテックス社は、この仕事の見返りにCIAから30万ドルの報酬を受けていた。
しかしこの事件は、ノースが沈黙を守り、すべての罪をかぶってしまったため、レーガン政権幹部やブッシュの政治責任は問われることなく終わってしまった。

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1986年12月、イランへの武器供与の密約の当事者だったCIA元長官ウィリアム・ケーシーは、脳腫瘍の手術の術後に会話能力を失った。ケーシーはその翌年1月、ワシントンのレストランで連れ去られ、翌日死体となって発見された。全米のメディアは「CIA元長官W・ケーシー、長い入院生活の末、癌で死亡」と報道した。
同年2月、前国家安全保障担当補佐官ロバート・マクファーレンが服薬自殺を試みるが、一命を取り留めた。マクファーレンはその後、レーガン政権の海外秘密工作活動について、議会へ報告すべきものを隠蔽していた、と認めた。
同じ頃、タワー委員会はイラン・コントラゲート事件に関する報告で混乱を招いたとして、大統領主席補佐官ドナルド・リーガンをきびしく非難、一方でブッシュ副大統領を、テロ対策に活発に取り組んだとして賞賛した。翌日、リーガンは更迭されたが、メディアの取材に対して自分に責任を負わせるための陰謀があった、と発言した。
1987年11月、下院イラン・コントラゲート調査委員会は共同報告を発表、しかし、共和党のリチャード・チェイニー議員の調査の妨害と無力化の画策によって、報告書ではブッシュの責任については言及されなかった。後にチェイニーはブッシュ政権(1989-1993)で国防長官に指名された。そして、議会はイラン・コントラゲート事件の最終報告を発表して、幕引きが行われた。
1991年4月、タワー委員会元委員長のジョン・タワーが、飛行機事故で死亡した。彼は死の直前から、イラン・コントラゲート事件に関する疑惑を本に書き始めていたという。

第二章(9) 【1990年 クウェートシティー】 につづく。

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