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文明の黙示録(20)

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                   第二章 資本の野望 (9)

                   【 1990年 クウェートシティー 】

Colombia0001 アメリカの麻薬ビジネスは、冷戦期間を通じて築き上げられていった。ソ連および共産主義勢力に対する世界各地での様々な活動には莫大な費用を要するが、それらすべてを公開して議会に予算請求することは出来ない。国内には常に平和のために軍事費用、防諜費用を削減せよ、という圧力があり、時に十分な予算を議会が認めない場合もある。
そこで、政府の会計を通らない「裏資金」の工面が必要になる。麻薬ビジネスは、それ自体が秘密性が高いために、「裏資金」の資金源としてはうってつけだった。CIAは、ラテンアメリカや中央アジア、東南アジアの麻薬産地で、大規模な麻薬密造組織を運営するようになっていった。

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特にラテンアメリカは、アメリカにとっての麻薬ビジネスのシャングリラであった。
コロンビアは70年代末に一大コカイン生産国となった。自由市場主義を受け入れて市場開放したコロンビアの農産物市場には、補助金をもらって競争力の高いアメリカ農産物が輸入され、国内農業は壊滅状態となった。農民は、輸出作物の生産へ転換を行うように求められ、コカやマリファナなどの生産が広まった。1988年にアメリカはコーヒー農家に対して、相場水準の維持協定を破棄するよう強制し、コロンビアの主要輸出産品であったコーヒーの価格は40%下落した。飢えたコーヒー農家は、麻薬の栽培を始めるようになった。
第三世界に押しつけられた新自由主義政策が、麻薬取引増大の主要な原因の一つであった。

一方で、アメリカは麻薬取締り政策に力を入れているが、これには、アメリカの軍産複合体の存在が関係している。
アメリカの軍事産業と国防総省、軍事産業からの政治献金を受けている政治家などによって構成される「軍産複合体」と呼ばれる巨大な利権集団は、政治力だけでなく、経済的にも大きな力を持ち、アメリカの大統領には、米軍の「仕事」を拡大させるよう、常に圧力がかかっている。麻薬取り締りのための米軍の軍事作戦は、彼らの要望に答えるには最適なものなのだ。あるいは、「麻薬撲滅活動」の名の下に、現地政府のゲリラ掃討活動へのアメリカからの武器輸出が正当化されている。

こうして、一方で麻薬製造によって利益を得ながら、一方でその取締りによって別の利益を得る、というアメリカにとっては二重に美味しいのが麻薬ビジネスである。

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H_bushsr_cabinet0002 1981年にレーガン政権ができると、アメリカの支配力を維持拡大するため、世界各地でアメリカの代理をする民兵組織を養成し、その資金確保のため、麻薬栽培が積極的に行われるようになった。その顕著な例が、ニカラグアだった。
ニカラグアでは1979年に革命がおきて社会主義政権ができたが、レーガン政権下のCIAは、これを潰すために地元の民兵組織を束ねて反共組織「コントラ」を結成させた。そしてコントラに、ラテンアメリカからアメリカ本国への麻薬密輸を手がけさせ、それを資金源に活発なゲリラ活動が展開された。これらは、CIA長官から副大統領になったジョージ・ハーバート・W・ブッシュによって統括されていた。

1986年に露見したイラン・コントラゲート事件は、アメリカ政府にとって、こうした「裏」の姿が暴き出される重大な危機であった。CIAによる組織的な麻薬ビジネスへの関与、「テロとの戦い」であるはずの敵との癒着や武器商人との深い関係、国際的なマネーロンダリングを行う銀行(BCCI)の存在など、政権が転覆してもおかしくない一大事であった。
そこにさらなる困難が追い討ちをかける。

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パナマの独裁者であるマヌエル・ノリエガ将軍は、キューバのカストロ政権やニカラグアなどラテンアメリカの社会主義政権を撹乱させるCIAの作戦(当時の長官はブッシュ)に協力してきた。その代わりに、コロンビアからパナマ経由でアメリカへ密輸するコカイン取引に関わり、利益を得ることを黙認されてきた。1988年2月にデルバイエ大統領がノリエガ将軍の解任を決定したが、ノリエガは逆に国会を動かして大統領を罷免し、ソリス・パルマ政権を作った。ノリエガ将軍とアメリカとの対立は深まり、マイアミの大陪審は麻薬取引および資金洗浄の疑いでノリエガを起訴した。しかし、ノリエガはイラン・コントラゲート事件でブッシュ大統領が窮地に陥っていることを見て、1989年12月には国家最高指導者のポストを作り、自ら就任して独裁権力を増大させた。

Panama0001 1989年12月20日、アメリカの武装ヘリ部隊がパナマ市内に爆撃を開始し、米軍のパナマ侵攻が始まった。500名のパナマ国防軍に対して米軍は25,000の大部隊でパナマ国内27カ所を同時に攻撃し、ノリエガ将軍は投降した後、アメリカ本国で裁判にかけられ、1992年に「麻薬密売」の罪により40年の拘禁判決を受けた。
アメリカのパナマ侵攻では、秘密兵器だったステルス戦闘爆撃機、アパッチヘリ、レーザー誘導ミサイルなどの度を越えた兵器が使用され、人口が密集している市街地が攻撃され、一般市民に多くの犠牲者を出した。ブッシュ大統領が、如何にノリエガの口封じに必死だったかがうかがえる。

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1988年8月、イラン・イラク戦争は、両国が国連決議を受諾して停戦が発効した。イラン、イラクともに得るところのない戦争であり、特に多大な軍事費用を支出したイラクは、600億ドルもの膨大な戦時債務を抱えて苦しんでいた。サダム・フセイン大統領は、対イラン戦開戦時には味方であったはずのアメリカが、密かに敵国であるイランに武器を与えていたこと、およびアメリカの同盟国のイスラエルがイラクへ攻撃を行ったことを重大な裏切りと憤り、戦時債務の回収のために隣国クウェートの併合を考えた。
1990年7月27日、クウェート北部国境にイラク機甲師団が集結しているところを米偵察衛星が発見した。8月2日午前2時、戦車350両を中心とするイラク軍機甲師団10万人はクウェートとの国境を越えて侵攻を開始した。圧倒的な兵力差に加えて、クウェート側はイラクが本気で攻撃してこないと油断していたため、午前8時にはクウェート全土がイラクによって占領された。
ラテンアメリカでのスキャンダルで苦しんでいたブッシュ政権にとっては、世間の目を逸らせる絶好のチャンスが訪れたわけであり、政府はわずか5日後には米軍をサウジアラビアのイラク国境地帯に集結させていた。
米軍は、最前線での記者の取材を許可し、CNNを筆頭に全米メディアは連日速報を流した。世間の注目は湾岸情勢に引きつけられ、政府のスキャンダルは片隅に追いやられていった。

第二章(10) 【1993年 東京】 につづく。

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