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文明の黙示録(25)

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                   第二章 資本の野望 (14)

                   【 2000年 マイアミ 】

Israel_army1 「1980年代のイスラエルの戦略(A Strategy for Israel in the Nineteen Eighties)」という記事は、1982年2月『Kivunim、A Journal for Judaism and Zionism』という世界シオニスト組織の出版物に掲載された、イスラエルと中東の未来図を分析した報告書である。
イスラエルにとって、地下資源が豊富に埋蔵されていると予想されるシナイ半島は国益上絶対に手放せない。ということは、国際社会がなんと言おうと、シナイ半島占領地から引き揚げることはしてはならない。一方、オスマントルコ帝国滅亡後にヨーロッパ先進国によって勝手に国境が策定されたアラブ諸国も、大きな問題を内包している。ヨーロッパ人が地図の上で勝手に国境線を書いたため、すべての国で民族および宗教宗派が混在しており、常に対立や摩擦が発生し、安定した社会の構築ができない。
イスラエルおよびアラブ各国が安定した世界を手に入れるためには、イスラエルの軍事力を地域最大のものにして、その力を後ろ盾にアラブの国家を再構築して安定した中東世界を実現しなければならない。

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報告書は、いくつかの具体例に触れる中で、イラクの分割にも触れている。石油のおかげで豊かであるが、大多数のシーア派を少数のスンニー派が支配し、それに加え、北にはクルド人という大きな勢力があるイラクは、ひとたび政権が不安定になれば、内部分裂する可能性が非常に高い。民族・宗派による地域境界線で分ければ、3つ主要な都市バスラ、バグダッド、モスルを中心とした、南のシーア派、中央のスンニー派、北のクルド勢力、という小さな勢力に分割され、それはイスラエルにとっても脅威の消滅という望ましい結果をもたらす。

驚くべきことに、2003年11月、イラク戦争末期に「アメリカ外交問題評議会(Council on Foreign Relations=略称CFR)」という米大統領の政策決定に大きな影響力を持つシンクタンクで、CFR総裁のレズリー・ゲルブが個人的見解として「イラク3分割案」を提案している。さらに2007年9月には、アメリカ上院議会がイラク分割決議を採択し、イラクのマリキ首相へ実行を迫っている。

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R_cheiney01 クリントン政権のあいまいな軍事戦略にイラ立ちを隠さない軍産複合体は、1997年に「新しいアメリカの世紀プロジェクト(Project for the New American Century=略称PNAC)というシンクタンクを設立し、1998年1月にはイラクへの侵攻をクリントン大統領に進言した。
PNACの創設者は著名コラムニストのウィリアム・クリストル氏で、国防費増大と強大なアメリカの軍事力を支柱にした世界秩序の構築を基本的な主張にしている。「軍事力を積極的に行使し、自由や人権、民主主義、資本主義といった米国的価値観を世界に普及させる新保守主義」と、PNACのドネリー副事務局長は説明するが、アメリカ的価値観を「十字軍」のように広めることを目指す主張は、「新アメリカ帝国主義」と呼ばれる。クリストル氏と親しいコラムニストのクラウサマー氏は「冷戦終結でアメリカ一極構造が出現したのに、クリントン政権は力を振るうことを躊躇している」と憤る。

不明瞭で不穏なこの右翼政策グループには、リチャード・チェイニー(後のブッシュ政権の副大統領)、ドナルド・ラムズフェルド(同国防長官)、ポール・ウォルフォウイッツ(同国防副長官)、ピーター・ロドマン(同国防次官補)、エリオット・アブラムス(同国家安全保障会議(NSC)部長)、ルイス・リビー(同副大統領首席補佐官)といった、後のブッシュ政権の中枢を担うメンバーが顔を揃え、「ネオコン」の牙城と言われている。

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アメリカには、イスラエル右派のリクード党支持の組織「国家安全保障問題ユダヤ研究所(JINSA)」がある。JINSAは、第四次中東戦争によってエジプトとイスラエルの間の紛争地となっているシナイ半島に国連停戦監視団が入り、イスラエルのシナイ半島占領の既成事実作りが行き詰ったことに危機感を持ったアメリカのシオニストグループによって、1976年に結成された。JINSAはアメリカの兵器製造の軍需産業やイスラエルの軍需産業とも密切な関係を持っている。

Syaron01 NHKが2004年2月7日に放映した『エルサレム』(後編)という番組では、イスラエルのシャロン(当時国防相)がアメリカを訪問した際に参加した、あるパーティーシーンが映されていた。これは「ワシントンにあるユダヤ系のシンクタンクJINSAが毎年開いているパーティで、出席者はイスラエル軍、アメリカ軍、そしてロッキード社などの軍需産業関係者」だと紹介された。
「JINSAは、アメリカとイスラエルの軍事技術交流に深く関与している」というアナウンスの後に、JINSAのショシャナ・ブライアン副所長がインタビューに答え、「兵器の実地テストがイスラエルなら、ずっと短い時間で実現できる。」と語っている。番組のナレーションは、「アメリカの武器開発にとって、イスラエルは重要な実験場だった。アメリカのイスラエルへの無償軍事援助は現在、年間18億ドルに達している」と説明した。

PNACのリチャード・パール(後のブッシュ政権での国防政策諮問委員会委員長)、ダグラス・フェイス(同国防次官)、リチャード・チェイニー(同副大統領)といった人々は、JINSAの顧問を勤めていた。PNACとJINSAの2つのグループは、2000年の大統領選挙で、共和党のジョージ・W・ブッシュを当選させるために結託した。

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2000年の大統領選挙は、潤沢な資金と幅広い支援組織に支えられたジョージ・W・ブッシュ(共和党)と、クリントン政権で副大統領だったアルバート・アーノルド(アル)・ゴア(民主党)の戦いになった。当初は、軍需産業をはじめとする経済界と巨大なユダヤ人組織に後押しされたブッシュ陣営の圧勝と思われたが、一般市民の支持を集めたゴア陣営の猛烈な追い上げで、アメリカ史上で最も接戦となった選挙のうちの1つとなった。
さらに、最終局面では選挙票の集計作業を巡って両陣営の訴訟合戦も発生し、非常に長期間を要した結果、最終的には一般投票で過半数を獲得できなかったブッシュが、接戦だったフロリダ州を制したことで大統領選挙人投票で271対266の僅差で勝利、次期大統領となることが決定した。

Bush031 この時のフロリダ州知事は、ブッシュ候補の実弟でPNAC会員のジョン・エリス(ジェブ)・ブッシュだったが、ジェブはフロリダ州投票実施に先駆けて、「フロリダ州民重罪前科者リスト」を作成し、リストに該当する約9万4千人のフロリダ州住民の投票資格を剥奪した(テキサス州、フロリダ州など南部の13の州では重罪前科者の投票権を認めていない)。
しかし、リストに掲載された「前科者」の大半は実際には無実だった。この不正な手法(州当局は事務上のミスと説明した)により、投票資格を剥奪された大半は黒人で、民主党支持者だった。英BBC放送の試算では、この不正なリストにより、ゴア陣営は少なくとも2万2000票を失っていた、と報じた(ブッシュとゴアとの票差はたったの537票)。

ゴア陣営は州法に基づき、マイアミデード郡など四郡で、手作業による再集計を求めた。これに対してブッシュ陣営は「差止め請求」を行い、フロリダ州のキャサリン・ハリス州務長官(ジェブ・ブッシュと親しく、ジョージ・ブッシュ選挙チームのメンバーだったことが後に判明)は、パームビーチ郡等で手作業による再集計が行われている最中にブッシュ陣営の勝利を確定した。しかし、フロリダ州最高裁の上訴審はハリス長官の「勝者確定」を停止して、手作業集計を認め、投票結果に算入するよう命じた。手作業集計が始まるとブッシュのリードはまたたく間に僅か193票に縮まったが、ブッシュ陣営は連邦最高裁に上訴、連邦最高裁は「フロリダ最高裁の判断は憲法違反」と判断して「手作業の停止」を命じた。この時点で、ゴア陣営には選挙結果を確定させなければならない期日までに再度訴訟を起こして再集計作業を行う時間が残っていなかったため、ゴア候補は選挙での「敗北宣言」を行った。

第二章(15) 【2001年 ニューヨーク】 につづく。

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