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文明の黙示録(31)

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                   第三章 帝国の崩壊 (5)

                   【 2007年 バリ 】

Dobai01 20世紀は人類にとって、空前の発展の世紀であった。その前の世紀に始まっていた産業革命は「蒸気機関」という動力を生み、工業社会を拡大したが、20世紀に入ってからは、石油製品と電力によって地球的規模の経済成長がなしとげられた。一方で、20世紀の経済成長の原動力である「石油と電力」は、同時に地球の歴史にかつて無い規模での「CO2排出」をもたらした。20世紀は、電力と石油の大量消費に始まり、電力と石油の大量消費の見直しに終わる世紀、ととらえることができる。

国連機関であるWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)が共同で設置しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2001年にまとめた第三次報告によれば、2100年までに大気中のCO2濃度は540~970ppmに増大し(現在は370ppm)、地球平均気温は1.4~5.8度、海水準は9~88センチ上昇すると予想されている。これによって低地や島国の水没や、乾燥地域のいっそうの乾燥化と湿潤地域の豪雨の増大による農業生産への影響、マラリアなどの熱帯地方の感染症が広い地域への拡大、急激な変化に生態系が適応できないことによる希少種の絶滅、などが危惧されている。
2006年、気象庁のスーパーコンピューターの計算による地球温暖化の予測では、二酸化炭素濃度がこのまま上昇すれば、オホーツク海は100年後に水温が3~4度上がり、海氷が消えるという結果が出た。

CO2は現代文明においては、産業活動や自動車、冷暖房など、人びとの基本的な生活の中で不可避的に発生する。先進国には、CO2削減のための様々な技術的検討も要請されるし、また生活様式そのものへの意識の転換も求められている。しかし一方で、いま現在50億の人口を有する途上国は、今後の人口爆発、経済成長とともエネルギー消費が爆発的にのびていくと予想される。
19世紀以降、人類が築いてきた文明は、民主主義や自由主義、社会主義などのイデオロギーであり、経済と金融であり、軍事力と戦争であった。しかし、今その文明の前に現れた「環境」という大きな課題は、現在の世界システムを動揺させつつある無視できない問題となっている。そして、化石燃料の燃焼に伴う地球温暖化は、20世紀の地球的な経済成長によって生み出されているだけに、現代文明とどう両立させるか、人類の英知が試されている。

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最初に地球環境に関して国際的に討議されたのは、1972年にスウェーデンのストックホルムで開催された「国連人間環境会議」だった。この頃すでに、北欧諸国では酸性雨や環境汚染などの環境問題が顕在化し、人々の意識が高まっていた。
ストックホルム会議では、大気汚染などの公害や環境の破壊がこのまま進めば、人類は生存さえも怪しくなる、との危機感の共有を目指したが、米ソ冷戦時代であったことと、先進国がそれぞれ高度経済成長を遂げていたことから、環境への意識は高まったものの、環境保護に関する行動計画はほとんど実現しなかった。

その後、1987年には当時大問題となっていたオゾン層破壊の原因であるフロンガスを規制するモントリオール議定書が締結されるなど、地球規模環境問題を話し合うベースは少しずつできていったが、地球環境危機に国連が本格的に取り組んだのが、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた「地球サミット」であった。
地球温暖化問題が国際交渉の舞台に上がったのは80年代の終わり。1992年には、地球サミットに合わせ、気候変動枠組み条約が作られた。リオデジャネイロ会議では、かなり突っ込んだ話し合いが行われ、「先進国は2000年までに温室効果ガスの排出量を安定化させる」という条約の決議を目指したが、アメリカの猛反対によりこの条約では具体的な数値目標は掲げられなかった。

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Kyoto01 米ソ冷戦が終結し、アジアや中南米の国々が経済成長路線に入ってくると、環境問題の深刻さが浮き彫りになってきた。ここへ来て科学的な研究も進み、地球環境破壊の影響が明らかになるにつれ、先進諸国も自己都合での問題の先送りをやめて、国際的枠組みで環境保護に取り組む方向に国際政治が動かされていった。1997年の京都会議では、日本、アメリカ、EUの先進工業国にCO2削減の数値目標が掲げられ、また、アメリカの強い提案により森林の吸収源をカウントする仕組みや先進国同士で排出できる枠を取り引きする仕組みが導入された。

EUは、京都会議ではCO2削減に積極的だった。これは、1995年に環境問題に関心の高いスウェーデンやフィンランドがEUに加盟したことが影響しているが、それ以外にも、CO2の排出量を取引できる制度が導入されると、エネルギー効率の悪い東欧を援助し、そこで削減した多くのCO2排出量をEU割り当ての削減排出量分に当てられるという読みがあった。(実際に2004年、EUローマ会議によって一気に10カ国がEUに加盟することになる。)
クリントン政権のアメリカもまた強気だった。米民主党の大きな支持母体となりつつあった環境団体を強く意識し、削減実施を強調し、京都会議ではCO2削減に消極的だったロシアも説得した。アメリカもまた、中南米諸国と共同実施すれば、少々の割り当て削減量も達成できるだろうという読みがあった。もっとも、中南米諸国はCO2の削減を押し付けられるのを恐れて、アメリカとの共同実施には反対したが。
日本は、環境問題でイニシアチブを取りたい環境省と、経済成長の足かせになることを懸念する通産省の間で綱引きが続いたが、開催国としての面子を立てたい外務省の後押しによって6%の削減目標を受け入れた。

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ところが、2001年3月、アメリカに共和党のブッシュ政権が発足すると、ブッシュ大統領が突然京都議定書からの離脱を世界に向けて宣言した。10年の交渉の成果として作られた京都議定書を、一方的にひっ くり返すような発言に世界中からアメリカを非難する声が殺到した。アメリカが立場をひるがえしたのは、ブッシュ大統領や政権幹部とアメリカ石油メジャーとの親密な関係によるものであることは明らかだった。事実、世界最大の石油企業エクソンモービルは、ブッシュ大統領の選挙資金の大献金先であった。
日本とEUは選択に迫られた。ひとまずアメリカ抜きで京都議定書を発行するか、それとも、アメリカといっしょにもう一度ゼロから話し合いをやり直すか。EUはアメリカ抜きでも条約を発効させようと意気込んだが、ブッシュ政権とべったりの関係だった日本の小泉首相は、「アメリカを説得する」というあいまいな態度を取りつづけた。結局、世界の多くの国が参加して作った京都議定書を台無しにしたのは、日本とアメリカだった。

2007年6月、ドイツのハイリゲンダムで開かれた主要国首脳サミット(G8サミット)では、「世界経済」「アフリカ」を主要議題として議論され、世界経済では、特に気候変動が大きなテーマとなった。 今日現在、温室効果ガス削減の枠組みとして京都議定書があるが、最大の排出国であるアメリカは京都議定書から離脱しており、中国やインドなどの主要排出国には削減義務が課されていない。そのため、サミットでは、ポスト京都議定書の新しい枠組みづくりが重要な課題として取り上げられた。
排出削減の新しい目標を定めるにあたっては、主要排出国を含めて、2050年までに地球規模での排出量を少なくとも半減させるという日本などの決定を真剣に検討するとの内容が、首脳文書に盛り込まれた。さらに、全主要排出国を含む2013年以降(ポスト京都議定書)の包括的な合意の達成に向け、2007年12月にインドネシアのバリで開催される国連気候変動会議に参加するよう、すべての締約国に呼びかけることも合意された。

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Earth01 人類はいま文明の大きな転換期にある。現在の地球環境の問題を放置して、このままアメリカ型の大量生産、大量消費文明を続けていくと、2050~2070 年頃には現代文明は終焉を迎える、という指摘もある。地球環境問題の解決は、市場原理主義をどう超克できるか、国際的な企業資本の求める利潤とどう折り合いをつけるか、にかかっている。
自然と人間が調和した共存型のライフスタイルや世界観による21世紀の新しい文明を、私たちは作り上げることができるだろうか。

                     【  完  】

長らくご愛読いただきましてありがとうございました。「文明の黙示録」は、今回で完結いたします。石油文明と言われる現代世界が生み出した国際石油資本や国際金融資本が、平和においても戦争においても国際政治で大きな役割を果たすようになった流れを浮き彫りにして、低迷する今日の日本の病根を明らかにする一方で、これらからの日本の針路を見出したい、と考えて1世紀少々の時間を俯瞰してきました。本来は各トピックスの出典を明らかにすべきですが、多くの資料に手を広げすぎてしまい、まとめきれなくなってしまいましたことをご容赦下さい。(筆者)

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