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文明の黙示録(28)

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                   第三章 帝国の崩壊 (2)

                   【 2003年 バグダッド 】

Bush01 2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件直後に、「テロとの戦い」を訴えてアフガニスタンに軍事攻撃を仕掛けたブッシュ大統領は、2002年初頭の一般教書演説において「悪の枢軸」として、イラク、イラン、朝鮮民主主義人民共和国を名指しで非難した。特にイラクに対しては、大量破壊兵器を保持しているとして、政府関連施設などの国際機関による査察を繰り返し要求、イラクはこれに応じて4年ぶりに全面査察が行われたが、アメリカは納得のいく結果ではなかったとさらに非難した。
2003年3月17日、ブッシュ大統領はテレビ演説でイラクに対して軍事攻撃の最後通牒を行い、2日後の3月19日、アメリカ軍は英国軍などと共に「イラクの自由作戦」に則って、イラク空爆を開始した。

国連では、アメリカのイラク攻撃に対してフランス、ドイツ、ロシア、中華人民共和国などの常任理事国が強硬に反対を表明した。アメリカの行動を支持した英国でも、ブレア政権の閣僚であるクック枢密院議長兼下院院内総務、ハント保健担当、デナム内務担当両政務次官などが相次いで辞任して、ブレア首相に抗議した。
日本の小泉首相は、イラクが大量破壊兵器を持っている、というアメリカの主張を鵜呑みにして、全面的な支持を表明した。

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イラクのサダム・フセイン政権排除は、右派シンクタンクのPNAC(新しいアメリカの世紀プロジェクト)がクリントン政権に対して武力攻撃を提唱して以来、アメリカのネオコンにとっては極めて優先順位の高い政策課題になっていた。特に、チェイニー副大統領はCIAに熱心にイラク情報を提出させて、世間が納得するような「イラクの脅威」を探し出そうとしていた。
2001年暮れに、イラクがアフリカのニジェールからウランを入手しようとしている、との報告があると、副大統領の事務所はただちにその確認を求め、2002年2月に調査のためにニジェールに派遣されたジョセフ・ウィルソンは、調査の結果としてそのような疑惑は根拠がない、と報告した。
ところが、ブッシュ政権は2002年夏には対イラク開戦を決定し、イラクがアルカイダを支援して9.11テロに間接的に関わっていたこと、大量破壊兵器を開発していること、アルカイダに大量破壊兵器を輸出する可能性が高いこと、を強調して発表した。

ジョセフは2003年7月6日付けのニューヨーク・タイムズ紙に、イラクの核開発についての情報が捻じ曲げられている、と寄稿してホワイトハウスの「陰謀」を暴露した。だが、その直後の7月14日、ワシントンの政治コラムニストであるロバート・ノバクが、ジョセフの妻はCIAエージェントである、と報じた。CIAエージェントの身分の暴露は、アメリカ合衆国の法律である「情報部員身分保護法」により禁止されている。
ジョセフは、妻がCIAの秘密工作員であることを明らかにしたのはホワイトハウスによる報復であると述べ、テレビなどのメディアを通じその違法性を訴えた。こうして事態は「CIA秘密工作員身分漏洩事件」へと発展し、ブッシュ政権を揺るがす大スキャンダルになっていった。

Photo 2003年12月30日、司法省のパトリック・フィッツジェラルド特別検察官は、司法長官命令により、この事件解明のために捜査を開始したが、政府高官らの圧力や嫌がらせ、マスコミの情報源の秘匿などの圧力によって捜査は非常に難航した。この捜査の最中の2005年7月18日には、フィッツジェラルド暗殺未遂事件も起きた。だが、フィッツジェラルドは22ヵ月に及び取り調べを行い、FBIや大陪審に対する偽証などに焦点を絞り、遂に事件を立件した。
連邦大陪審は2005年10月28日、リチャード・チェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・リビーを偽証、嘘誓、司法妨害の罪で起訴した。リビーはすべての責任を被り、副大統領補佐官の職を辞したため、チェイニー副大統領とブッシュ大統領の次席補佐官カール・ローブについての起訴は見送られた。

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2004年10月6日、ドルファー中央情報局(CIA)特別顧問を団長とする米政府大量破壊兵器調査団は、上院軍事委員会への報告で、ブッシュ政権がイラク戦争開戦の根拠とした大量破壊兵器に関して、「イラクには大量破壊兵器はなかった」、「開発計画もなかった」と断定した。しかもドルファー最終報告によれば、開戦前夜どころか、査察が中断された1998年の遙か以前、1991年末の段階で、すでにイラクは核兵器も、生物兵器も、化学兵器も保有していなかったこと、計画も放棄されたことが明らかになった。
戦争直前の国連安保理やIAEA等の国連機関、国際世論の圧倒的多数がイラクの大量破壊兵器の保有に懐疑的で、査察継続を主張していたことが完全に正しかったことが確定された。

2007年5月10日、英国のブレア首相は任期を3年も残して早期退陣した。発足時には70%を超えていたブレア政権の支持率は、20%台にまで凋落していた。ブレア政権の最大の失政はイラク参戦だった。国際法に違反して対イラク戦争を実施したアメリカを全面的に支持していたブレア首相も、イラク参戦の理由にしたフセイン政権の大量破壊兵器については「(情報が)間違っていた」と謝罪した。
「フセインが見つからないからといって、フセイン大統領が存在しなかった、とは言えないでしょう。同じように、大量破壊兵器が見つからないからと言ってそれらが無いとは言えない」、と強弁した日本の小泉首相と自公政権は、この問題にほっかむりを決め込んだ。

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イラク戦争開戦直後のアメリカ軍を中心とした有志連合軍の航空機のピンポイント爆撃と巡航ミサイル攻撃によって、イラク軍の指揮系統は早期に崩壊し、アメリカ軍は完全に戦争の主導権を握った。陸上部隊の展開も迅速で、2003年4月9日にはバグダッドに侵攻して大統領宮殿を占拠し、街の中心にあったフセイン像を引き倒した。
5月1日の「戦闘終結宣言」によって、連合軍の圧倒的勝利という姿で、イラク戦争は終わり、その後は、米国防総省人道復興支援室および連合国暫定当局(CPA)の統治に移り、復興業務が行われることとなった。復興業務には米ハリバートン社、米ベクテル・インターナショナル社らアメリカの民間企業がいくつも参加し、本来は軍が行ってきた食糧や物品、軍事物資の輸送業務を行った。
イラク復興業務の民間への開放は、チェイニー副大統領らブッシュ政権閣僚の肝いりで始められたが、参入企業の多くがブッシュ政権の閣僚を取締役に据えているなど、戦争利権の特定企業への分配という不明朗な側面が指摘されている。

Iraq001_2 だが、フセイン政権が倒れた後もイラクの戦闘状態は続き、輸送任務についた民間のトレーラーは、アメリカ軍の護衛がついていても武装勢力の標的となり、銃撃、爆弾攻撃、ロケット砲攻撃、殺人、誘拐が相次いだ。運転手には、現地のイラク人やネパール人、フィリピン人ら賃金の安い外国人を雇用したが、彼らも数多く戦闘の犠牲となった。このため、イラク業務に参加した民間会社は、独自に民間軍事会社とよばれる企業に武装護衛兵の派遣を委託したが、民間軍事会社の雇った多数の傭兵がイラクに入ったことで、反米イスラム武装勢力との戦闘はますます激化した。

そんな中、2007年9月には民間軍事会社(Private Military Company=PMC)ブラックウォーターUSA社の傭兵が、イラクの民間人17人を射殺する事件がおき、米軍の軍規にも、アメリカやイラクの法規にも拘束されない武装兵士の存在が問題化した。アメリカ政府は、射殺された17人の内、少なくとも14人の射殺には正当性が認められない、と公表したが、法的な処罰はできなかった。

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Sadam01 イラクのサダム・フセイン大統領は、米軍がバグダッドを占領した時にはすでに姿をくらましており、数ヶ月間行方不明であったが、2003年12月14日、ティクリート近郊の隠れ家に潜伏している所を米軍に発見され、拘束された。その後、イラク住民虐殺などの罪で起訴されたフセインは、2006年12月30日未明に死刑執行された。イラクでは、一時スンニー派とシーア派の武装勢力の間での宗派間抗争が起こったが、やがて両派は結束して占領米軍に対するレジスタンス運動を展開するようになった。
2007年11月の時点でイラク情勢は泥沼状態で、、有志連合軍の犠牲者は4000人を超えている。米軍の死傷者数は、12000人を超えた。

第三章(3) 【2004年 ローマ】 につづく。

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