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文明の黙示録(29)

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                   第三章 帝国の崩壊 (3)

                   【 2004年 ローマ 】

Puchin02 ロシアでは、エリツイン時代にエゴール・ガイダル首相が推し進めた急進的資本主義化の下で、政財癒着による極端な企業優先政治や急激な価格自由化がハイパーインフレを招き、金融危機を招くなどロシア経済の混乱と格差社会拡大を招いた。1999年に健康上の理由で引退したエリツィンに大統領代行に指名された元KGB出身のウラジミール・プーチンは、大きな政治力を持つようになった財閥企業を脱税・汚職などで追求し、企業の政治介入を排除し、企業にしっかり税金を納めさせることで国家財政を再建することに成功した。
2000年の大統領選挙で圧倒的な人気を集めて過半数の得票を受け正式に大統領となったプーチンは、愛国主義を掲げて「強いロシア」を目指すタカ派的・強権的な政治姿勢を強めた。プーチン政権は、貧富格差を拡大させた市場原理主義一辺倒のエリツィン時代の政策を転換し、企業の国営化を行い、国内にある豊富な天然資源開発を武器に、アメリカとは距離をおく外交で、ソ連時代の全体主義への回帰を強めていっている。

「強いロシア」を支えている天然ガス資源は、世界の天然ガス埋蔵量の27%を占め、ロシアは世界最大の天然ガス産出国となっている。西欧諸国は、消費する天然ガスの4分の1をロシアに頼っており、ドイツなどはアメリカから距離を置き、ロシアとの連携を強める方向に動き出している。また、9.11アメリカ同時多発テロ事件以来、アメリカ国内には中東諸国との関係を見直す動きがあり、危機感を持ったサウジアラビアはロシアに接近している。サウジアラビアは、ロシアの「イスラム諸国会議機構(OIC)」への加盟を支持し、ロシアとイスラム世界を結ぶ「非米同盟」の関係が強化されることになった。
また、ロシアは2005年には上海協力機構に加盟し、中国との関係強化も図っている。2007年8月、上海協力機構は、「平和の使命2007」という合同軍事演習を、中国新疆ウィグル自治区やロシアのウラル地方で行った。この演習はあくまで対テロのための演習という名目だが、対NATOあるいは対アメリカへの牽制と見られている。

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04 アメリカの証券会社ゴールドマン・サックス社のエコノミストが、2003 年10 月に発表した投資家向けリポートによると、2050年の国別の経済規模は、中国、アメリカ、インド、日本、ブラジル、ロシアの順となり、中国が世界最大の経済大国になる、と予測されている。
共産党支配の政治体制の中で、資本主義経済の導入に成功した中国は、驚異的な勢いで経済成長を続けている。そして、その急速な経済成長に伴うエネルギーの大量消費を賄うために、世界規模の資源外交を展開している。胡錦濤国家主席は、2004年11月、ラテンアメリカ4カ国(ブラジル、アルゼンチン、チリ、キューバ)を訪問し、エネルギー資源確保の交渉を行った。2000年の中国のラテンアメリカ諸国からの輸入は50億ドル弱であったが、2004年には220億ドル程度にまで急増している。
ラテンアメリカ諸国にとっても、貿易相手国としての中国の重要性が高まっている。胡主席は、ブラジルを「戦略的パートナー」と位置づけ、今後2年間で約100億ドルを投資、貿易額も3年内に200億ドルになる、と表明した。中国は、ブラジルの豊富な資源を手に入れるために、ブラジル沖合の海底油田の共同開発と天然ガス・パイプラインの共同建設への投資を決定してる。アルゼンチンでも今後10年間で鉱業、鉄道、その他のインフラ分野で総額197億ドルを投資することで合意し、チリとは共同で銅山開発の計画を進める、と合意した。

こうした中国のラテンアメリカでの勢力拡大に対し、アメリカも神経質にならざるを得ない。特に中国がキューバやベネズエラでとの関係を深めると、アメリカの対キューバ経済制裁の効果が無意味になり、またベネズエラからアメリカへの石油輸出が低下する可能性がある。
胡主席はカストロ議長との会談で、「たんなる友人ではなく兄弟である」と述べ、経済、技術分野での協力を約束している。こうした中国の政治的影響力の拡大は、アメリカの対ラテンアメリカの外交政策を根底から覆すかもしれない。

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03 アメリカの国際法に違反したイラク戦争に反対したドイツ、フランスをはじめとする欧州連合(EU)は、対米協調を維持しつつも、アメリカ一極支配を相対化させる位置を占めてきている。2004年10月にローマで加盟国首脳らが欧州憲法条約に調印してから、EUは旧社会主義国(東ヨーロッパ)も加盟国に加え、平和的手段によって欧州大陸の統合を促進してききた。近年新しく加盟した国々も資本主義国家として急速に力をつけつつあり、それが経済ブロックとしてのEU全体の経済力を上昇させている。欧州共通通貨であるユーロの地位はますます高まり、ユーロ非加盟国における利用も拡大している。
安全保障の面でも、EUはアメリカの影響力の強いNATOから独立して新しいEU独自の軍事力を持ち、アメリカに頼らずに全世界的な軍事作戦を可能にしようという方向に向かっている。具体的には、EU諸国が共同して最新鋭軍事兵器を開発し、互いに持つ軍情報を共有することで、軍事力を強化しようという動きだ。EU諸国が開発した最新鋭戦闘機の「ユーロファイター」は、現世界でNo1の空戦戦闘力を誇り、EU軍の世界的な軍事作戦行動を可能とためのEU軍輸送航空機の大量生産も着手されている。
EUは経済領域だけでなく、外交・安全保障領域でも共通の政策を持つ単一の巨大な国際勢力となりつつあり、アメリカをパートナー、ライバルのいずれと見なすのか、21世紀の世界秩序を大きく左右するだけに、アメリカ側も楽観視していられない。

「親米的」とされるフランスのサルコジ大統領も、「地中海連合」を提唱して、東アフリカ諸国を含めた地中海地域でのフランスのプレゼンス強化をめざしているし、ドイツのメルケル政権はロシアに接近して新たな協力関係を構築しようとしている。逆に、ブッシュ大統領の盟友だった英国のブレア首相は、イラク戦争参加への国民の不満の高まりの中で退陣に追い込まれた。アングロサクソン同盟で緊密な関係にあった英国も、アメリカとの距離をとり始めている。

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中日韓3カ国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2007年11月20日、シンガポールで第11回「ASEANプラス3」首脳会談を開いた。ASEANプラス3協力も10周年を迎え、この間、中国の経済成長を背景に東アジア全体の経済力は高まり、国際的地位は向上し、発展の展望はさらに明るさを増した。2010年前後に東アジアの経済共同体を、2020年までには安全保障を含めた東アジア共同体を目指す、という「東アジア共同体構想」は、実現に向けての歩を早めている。
日本の福田首相も、東南アジア諸国連合との首脳会議で、貿易自由化を柱とする経済連携協定(EPA)の締結に合意した。これにより、経済面での日本とASEANとの結び付きは大きく前進すると期待されている。そもそも、「東アジア経済圏」や「東アジア共同体構想」はアメリカを疎外するものだ、と反発するアメリカに気兼ねして、東アジア共同体構想に一番消極的だったのが日本だった。そうしたアメリカの意向を受けて、小泉政権時代には靖国参拝や歴史認識問題によってアジア地域への関与を縮小させてきた。しかし、2007年7月の参議院選挙で自民党が惨敗したことで、こうしたアメリカ追従一辺倒の日本の外交路線も転換せざるを得なくなってきたわけだ。
東アジアでも共通通貨が生まれることになれば、アメリカのドルの権威はますます失墜するので、ここでもアメリカの世界秩序の戦略は見直さざるを得なくなるだろう。

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Bush41 皮肉にも、冷戦崩壊によって世界の一極支配を目指したアメリカのネオコン勢力は、アフガニスタンやイラクへの武力侵攻で失敗し、その間にロシア、中国、EUといった新しい勢力が台頭してきた。アメリカは、逆に世界の中での孤立が深刻となり、中東やラテンアメリカ地域での反米勢力の拡大を招いた。パレスチナ情勢でも、パレスチナ人民とイスラエルの対立激化など、アメリカが抑え込もうと狙った地域の不安定化はいっそう進み、アメリカ主導の「和平構想」は完全に吹き飛んでしまった。
これらを背景に、ラムズフェルド前国防相、ボルトン前国連大使、ウルフォウィッツ前世界銀行総裁、ペース参謀本部議長など、ブッシュ政権を支えたネオコン勢力の中心人物が次々とその地位を追われ、政権を去っていった。経済の面でも、クリントン政権時代にせっかく立ち直りかけた財政が、ブッシュ政権によって再び巨額の「双子の赤字」という構造問題に後戻りし、基軸通貨=ドルの相対化も進んでいる。アメリカ経済を支えてきた旺盛な消費も、その基礎となってきた住宅バブルが崩壊し、サブプライムローンによる市場の混乱でバブル崩壊寸前の状況だ。
すでに「死に体」と言われるほどの政権支持率に苦悩するブッシュ大統領は、こうして2008年一杯で任期を満了して、ホワイトハウスから去って行くことになる。

第三章(4) 【2005年 マルデルプラタ】 につづく。

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