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文明の黙示録(30)

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                   第三章 帝国の崩壊 (4)

                   【 2005年 マルデルプラタ 】

Stop_bush01 2005年11月、アルゼンチンのマルデルプラタ市に米州34カ国(除くキューバ)の首脳レベルが集まり、第4回米州首脳会議(米州サミット)が開催されたが、FTAA(米州自由貿易地域)をめぐってアメリカと主要南米諸国(ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン)とが対立し、結果は、交渉が事実上凍結され、FTAAは完全に頓挫した。

冷戦下でアメリカは、この地域に誕生した社会主義政権にたびたび介入、軍事力で政権を転覆し、IMF(世界通貨基金)や世界銀行などを通じて経済の構造改革を求めてきた。しかし、そうしたアメリカの介入が、軍事独裁政権を生み出し、思想の弾圧や虐殺などが繰りかえされ、貧困をもたらした。ラテンアメリカの国々は、経済再建のため、1970年代から90年代にかけてアメリカ主導の規制緩和、民営化、外資の導入といった新自由主義経済を受け入れてきたが、その結果は、世界最悪と言われる「格差社会」が現出したのである。
アメリカが進めようとしているFTAA構想では、関税を撤廃し、多国籍企業により大きな自由を与えることで経済を活性化させようとするものだが、その実態はアメリカの大手資本による市場での利益収奪に他ならない、と理解しているブラジルを始めとする左派政権の国々は、団結してアメリカが主導する南北アメリカの政治、経済の統合にノーを突きつけた。

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01 新自由主義にもとづく経済統合は、FTAAに先行してアメリカ、カナダ、メキシコを統合する北米自由貿易地域(NAFTA)が1994年から実施に移されたが、そこでも貧富の差が拡大し、特にメキシコでは労働者、農民、先住民の生活破壊が顕著に現れた。NAFTAによるメキシコ経済と人民生活の破壊と荒廃を見せつけられたラテンアメリカ諸国では、1990年代後半から反新自由主義の闘いが大きく高揚しはじめ、2000年代に入って大きなうねりとなり、新自由主義にはっきりと反対する政権が次々と登場するまでになったのだ。
ブッシュ大統領は、米州首脳会議での敗北を悟って、最終文書が出される前にアルゼンチンを早々に立ち去ったが、その後訪れたブラジル、パナマでも激しい市民の抗議行動に遭い、パナマではブッシュの肖像が焼かれた。

世界の富をアメリカに吸い取るためのグローバリゼーションと新自由主義に反対するラテンアメリカ諸国は、アメリカ主導の米州サミットに対抗して、キューバも参加する「人民サミット(People's Summit of the America)」を組織しているが、今回も第4回米州サミットに対置して、11月1日から第3回米州人民サミットを開催し、「アメリカによる中南米への帝国主義的・新植民地主義的・債務奴隷的支配に対する“ノー”」というスローガンを打ち出した。

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1980~90年代の東アジアの多くの国は、「奇跡の経済発展」と呼ばれる急激な経済成長を遂げた。韓国、台湾などのNIESに続いて、ASEANも高度成長への離陸を開始し、21世紀は「アジアの時代の到来」と期待されていた。
しかし、1985年のプラザ合意によって日本が大幅な円高ドル安を受け入れ、アメリカの巨額財政赤字の解消政策に組み込まれた結果、東アジア諸国は、貿易、投資の自由化をハイテンポで進めることになった。円高で輸出競争力を失った日本企業が、生産拠点を東アジアに移すことになり、東アジア各国は、外資(特に日本企業)を受け入れて自国経済発展のテコにしようとしたのである。
その際、自国の通貨をドルに連動させる「ドル・ペッグ制」というシステムを採用して、日本企業に通貨不安を与えないようにしたことがアダとなり、アジアの通貨市場に世界中からドル資金が流入して、ジョージ・ソロスに代表されるような大規模ヘッジファンドに市場を食い荒らされてしまった。1997年のアジア通貨危機である。97年7月、タイの通貨バーツの暴落に始まった通貨の暴落は、マレーシア、インドネシア、韓国へと飛び火し、多くの現地企業が倒産、工場は閉鎖、操業中止に追い込まれ、町には失業者があふれ、人々の生活は急激に苦しくなった。

そもそもの原因は、アメリカの経済学者がそそのかすグローバリゼーションを信じ、アジア各国が金融市場を自由化し、外資進出企業に対する優遇措置と資本取引に対する規制緩和を進めた結果、ヘッジファンドや欧米の投資銀行などがぞくぞくと乗り込んできたのだ。最初は、大量の資金が世界中から集まりバブルが膨らむが、ひとたび資金が流出しはじめたときには、通貨当局は売りに出た自国通貨を買い取らざるをえず、経済はガタガタになり、失業者の群れと都市周辺のスラム、荒廃した農村と環境破壊だけが残った。
一方のヘッジファンドは、各国政府の通貨準備をはるかに超えた売り浴びせと暴落後の買い戻しという市場操作によって、労せずして巨万の利益を手にした。

02 アジア通貨危機の戦犯として、マレーシアのマハティール(前)首相はジョージ・ソロスを名指しで批判し、アメリカ主導のAPEC(アジア太平洋経済協力機構)をけん制しながら、アメリカの影響力を排除した形でのアジア自体の地域協力体制を強調している。
現実に、2007年9月にシドニーで行われたAPEC首脳会議は、省エネルギーの推進や森林面積の拡大といった地球温暖化対策への取組みに関する話し合いが中心となり、拘束力のない努力目標を謳った「シドニー宣言」を採択したに留まったが、それに対して、11月にシンガポールで行われた東南アジア諸国連合と日中韓3か国によるASEANプラス3首脳会議では、今後10年間の地域協力の方向性を示す「東アジア協力に関する第2共同声明」を採択、東アジア共同体実現に向けて具体的作業が始まった。東アジア諸国は、完全にアメリカを見限った。

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1992年のマーストリヒト条約締結によってヨーロッパ15カ国の地域統合を実現したEUでは、経済統合によって生まれた共通通貨「ユーロ」によって、外国貿易決算や外貨準備をドルへの依拠から転換させることに成功した。その結果、ドルペッグ制と金融自由化によって世界中を駆け回るドル資金の大量の流入によるバブルの膨張とその崩壊という、金融リスクを回避することにおおむね成功している。
さらにEUは、、より積極的にアメリカン・スタンダードに対抗する独自の価値観を確立し、アメリカと対立する主張も打ち出している。例えば1999年にシアトルで行われたWTO閣僚会議では、自由貿易に価値を置き貿易規制の撤廃を主張するアメリカに対し、EUはもっと環境基準や安全性を盛り込むことを要求した。具体的には遺伝子組替え食品や、ホルモン剤使用牛肉の輸入規制を要求している。
現在の国際貿易交渉の構図を見ると、アメリカが市場原理主義的な立場から大資本に有利なルールを主張し、EUは貿易ルールづくりの段階からさまざまな規制を残すべきだと主張して対立するという構図がある。一部の規制や市場保護を容認するEUの考え方は、資本主義の基本的なあり方としてアメリカの市場原理主義とは距離を置き、アメリカ的グローバリズムの暴走に対抗する勢力となっている。

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Abe_koizumi01 その点では、日本はいまだにアメリカへの恭順姿勢を堅固に示している。小泉政権が行った構造改革は、まさに新自由主義改革そのものであり、他国の例に違わず規制緩和で賃下げが進み、政府が「景気回復」と公表する中で家計の所得は減少し、地方を中心に市民の生活が深刻化した。日本の場合、経済全体の貯蓄が大きいために対外債務危機にはならないが、デフレ不況が深刻化し、不良債権処理を進めた銀行の貸出しも増えるどころか減少し、国債の購入が増えている(これは、90年代のラテンアメリカ諸国と共通の現象である)。
日本はアメリカからの「年次改革要望書」に基づき構造改革をしており、アメリカの資本が利益を得やすいように規制緩和や市場開放を進めているが、世界の大きな流れが新自由主義から転換する方向にあり、アメリカから距離を置く外交への転換が進んでいる中で、異質な情景となっている。
それでも、2007年7月に行われた参議院選挙では自民党と公明党の与党が大きく議席を失い、そうした政府の姿勢に国民がノーを突きつけた結果となった。日本の場合は、新自由主義を脱するためには対米輸出に依存する産業構造の転換が必要なため、大企業の利権団体である経団連も政府や霞ヶ関と組んでアメリカべったり路線を支えているが、本当の「改革」は市民の意識向上の中から生まれてくるだろう。

第三章(5) 【2007年 バリ】 につづく。

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» 世界の収奪のカラクリ:世銀は途上国を救うためではなく搾取システムを構築するために存在する [にほん民族解放戦線^o^]
昨日(2007年11月24日)の日経新聞に、またしてもムカつくニュースが載っていた。 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071124AT3S2202223112007.html 国際機関の増資、日本に重荷  世界銀行など国際機関の増資交渉が本格化する中、政府が対応に苦慮している。欧米先進国が出資拡大で足並みをそろえる一方で、財政にゆとりがない日本は拡大に応じにくく、国際機関での出資シェアを大きく落としかねない状況。日本は来夏の主要国首脳会議(洞爺湖サミット... [続きを読む]

受信: 2007年11月28日 (水) 01時33分

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